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人となりを知らないことで生じるリスクとその対策:企業がハラスメントを防ぐために知っておきたいこと

人となりを知らないことで生じるリスクとその対策:企業がハラスメントを防ぐために知っておきたいこと

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村井 真子

人となり、つまりその人の人柄や価値観は人間関係に大きな影響を及ぼします。相手の人となりを理解せずに関係性を構築しようとすることはハラスメントのリスクを抱えることになりかねません。この記事では企業においてそこで働く社員の人となりを理解することで得られる効果、人となりを知らないことで起こりうるハラスメントについてハラスメント対策に詳しい社会保険労務士が説明します。

ハラスメントとは何か?その定義と影響

 ハラスメントとは「いやがらせ」「いじめ」の意味です。現代社会では社会的な用語になっており、職場で起き得るハラスメントの種類の認知度調査ではセクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメントの認知度は9割を超えています。また、モラル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメントといった言葉も回答者の8割以上が認知しており、ハラスメント行為全般に関する社会の関心の高さを示しています。

1 職場で発生するハラスメントの定義

様々なハラスメントがありますが、ここでは職場において起こる代表的なハラスメントについて説明します。

パワー・ハラスメント(パワハラ)職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもののこと
セクシャル・ハラスメント(セクハラ)職場におけるセクシャル・ハラスメントとは「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること
モラル・ハラスメント(モラハラ)暴力を伴わない精神的虐待、精神的な暴力やいやがらせのこと。セクハラやパワハラにおいて暴力を伴わないものを含む。
マタニティ・ハラスメント(マタハラ)職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されること
パタニティ・ハラスメント(パタハラ)マタハラのうち、特に育児に関わる男性に対して行われるもののこと
ケア・ハラスメント(ケアハラ)職場において行われる上司・同僚からの介護休業等の利用に関する言動により、介護休業等を申出・取得した労働者の就業環境が害されること
カスタマー・ハラスメント(カスハラ)顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、 当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されること
時短ハラスメント主に労働時間の短縮のため、特段の有効策を示さないまま組織、特に上司が部下や組織のメンバーに対して業務の切り上げを強要し、かつ、これまで通りの成果も要求すること
就活ハラスメント(就ハラ)就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントのこと

2 現代社会におけるハラスメントの深刻さと影響

厚生労働省によれば、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、迅速に解決を図るための制度である個別労働紛争解決制度の利用件数は令和4年実績で124万8,368件となりました。15年連続で100万件を超えており、高止まりの状況になっています。また、民事上の個別労働紛争における相談、助言・指導の申出、あっせんの申請の全項目において、「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多となりました。

ハラスメントが生じることでのデメリットは様々なものがあります。ここではその代表的なものを示します。

ハラスメント被害者に対する影響

被害者である労働者はハラスメントによって人格や尊厳を傷つけられ、仕事への意欲や自信をなくします。また、ハラスメントは心の健康の悪化につながり、場合によっては休職や退職、さらには自殺という最悪の結末を迎える可能性もあります。

ハラスメント加害者(行為当事者)に対する影響

ハラスメントの行為当事者は多くの場合加害行為をしているという認識がなく、被害を訴えられて初めて自覚する場合がほとんどです。しかしその自覚に反して何らかの処分を受けることになり、場合によっては行為当時者に対する周囲からのハラスメントが生じる可能性もあります。また、行為当事者自身が職場における信用を失い、そのため周囲からの評価ががらりと変わってしまうなど、被害者と同様に退職を余儀なくされる場合もあります。

ハラスメントが発生した職場に対する影響

ハラスメントは上司と部下が適切なコミュニケーションをとれていない、業務分担が適正に行われないなどの要因で生じます。厚生労働省の調査によると、パワハラ・セクハラなどのハラスメントを受けたことによる心身への影響としては「怒りや不満、不安などを感じた」と回答した人の割合が最も高く、次いで「仕事に対する意欲が減退した」という結果になりました。

このように、ハラスメントがある職場ではスタッフの心理的安全性が脅かされ、生産性も低下する結果になります。

また、それによって離職者や休職者が増加し、人手不足になります。採用コストが膨らむと同時に育成コストもかかり、またそうした情報が流出することによって企業のイメージが悪化し、ますます採用が難しくなる悪循環になります。

ハラスメントが発生した企業に対する影響

ハラスメントが生じると、企業は安全配慮義務違反として訴えられる可能性があります。損害賠償請求をなされた場合、その賠償金や裁判費用など多額の費用を要し、さらにそうした争いを起こされているという事実が企業のブランドイメージを大きく棄損します。近年ではハラスメントを契機としたSNSでの内部告発などもあり、不買運動が起った事例もあります。こうしたことが株価へも影響し、資金調達の面から大きな不利益を被る可能性が出てきます。

3 ハラスメントリスクとなる「譲れない価値観」

ハラスメントリスクを低下させるためには、そもそもハラスメントが起らないような関係性構築を行っていくことが重要です。そのためには社員一人一人の人となりを理解し、その人にとって重要な価値観や要素を尊重していく必要があります。ここではその理由について説明します。

ハラスメントは「対人関係」で生じるトラブル

ハラスメントは対人関係で生じるトラブルです。政府調査によると、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は令和4年度調査では82.2%に上りました

その原因として挙げられるものは「仕事の量」36.9%、「仕事の失敗、責任の発生等」35.9%、「仕事の質」27.1%について「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」26.2%になっています。つまり、仕事に起因するものを除くと、職場におけるストレスの第一位は対人関係によるものだと言えます。

したがって、社員がどのような要素に対しストレスを感じるかという点を理解しておくことは企業と健全な関係性構築のために非常に重要です。また、社員同士でも意図せずハラスメントに繋がりかねない会話については慎重に扱うことで、ハラスメントのリスク低減に繋がります。

ハラスメントに繋がりかねない「譲れない価値観」の侵害

例えば「時間を厳守することは人として当然だ」という価値観を持っている人は、遅刻する人に対して極めて批判的な視線を向けることがあります。また、「締切まで時間があれば最後まで粘ってよいものを出すべきだ」と考えている人は、「締切よりも一日でも早く提出して相手の負荷を軽くすべきだ」と考えている人とは話が食い違うでしょう。「食事を残すことは無作法だ」という価値観を持っている人は食事を残す人に対して自分を軽んじていると感じる可能性があります。

このように、「譲れない価値観」は仕事に関するものに関わりません。更に、このような価値観、人となりは目に見えるものではありません。組織内において働くということを考えた場合、私たちは無意識にこの「譲れない価値観」を押し付けたり、押し付けられたりしています。価値観として自覚している場合はもとより、無自覚に自分の譲れない価値観を相手に強いている場合、ハラスメントの加害行為に当たる言動に繋がっていきます

ハラスメントリスクになる「譲れない価値観」へのこだわりとアンコンシャスバイアス

ハラスメントの原因の一つとしてアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の影響が指摘されています。

アンコンシャスバイアスとは、無意識に偏ったものの見方、考え方をしてしまうという認知のゆがみのことを指します。無意識なので無自覚なことが多く、また本人自身の行動規範にも影響するものであるため、是正するには自覚的にゆがみを正すトレーニングする必要があります。

自分の「譲れない価値観」はアンコンシャスバイアスを形成する要素の一つです。私たちには一人一人、「譲れない価値観」があります。それは育ってきた環境や自身の経験から得てきたものであり、同じ環境において育ってきた兄弟姉妹であっても異なるものです。しかし、私たちはこうした価値観を無意識的に(アンコンシャスに)周囲も共有していると考えてしまうことがあります。また、気づいたとしても、「譲れない価値観」に抵触することは受け入れがたいという心の動きがあります。「譲れない価値観」は自分に育ってきた時間そのものから生じるものであるために、変えることは過去の自分の否定にも繋がりかねないからです。

だからこそ、私たちは自身の「譲れない価値観」に自覚的になる必要があります。この価値観が多ければ多いほど周囲に対し無自覚にハラスメント加害を行う可能性があるからです。

ハラスメント研修だけではハラスメント加害が減らない理由

ハラスメント加害者(行為当事者)は、ハラスメントをしている自覚がないことが殆どです。だからこそ、ハラスメント研修を行ったとしても、当事者意識がない場合は意識変容、行動変容が起こりにくいというのが現実です。

ハラスメント研修はハラスメントの類型やその例を知り、該当するものを避けるよう教育するプログラムが多く存在します。また、自分や相手のものの考え方や見方の違いを知り、それを活かすようなコミュニケーションの研修もあります。ハラスメントの防止にはこうした研修は非常に効果的ですが、同様に無自覚に加害行為を行っている当事者にとって直接的な行動改善、意識改善には繋がりにくいという問題があります。

なぜなら、そのような無自覚な行為こそ「譲れない価値観」に根ざしたものであることも少なくないからです。それだけが原因ではありませんが、譲れない価値観のずれがハラスメント加害行為になる例、被害を深刻に感じやすいといった事例もあります。

4 ハラスメント対策として「譲れない価値観」の安心安全な把握と活用

したがってハラスメントリスクを低下させるためには、そもそもハラスメントが起らないような関係性構築を行っていくことが重要です。そのためには社員一人一人の人となりを理解し、その人の「譲れない価値観」を尊重することが求められます。

そのために重要な要素は下記のとおりです。

社員一人ひとりが自身の人となり、「譲れない価値観」を知る

「譲れない価値観」は本人にとってあまりにも当然のものであり、明確に自分でその内容を理解していないことがあります。だからこそ、自分が何によって傷つき、何を侵害されると怒りを感じるのか、またどのような点を評価されると嬉しいと思うのかといった「譲れない価値観」を自分自身で知る体験が必要です。

上司と部下の信頼関係を構築する

「譲れない価値観」は極めて個人的な情報であり、本人から開示を得なければ知ることができません。したがって、そうした自己開示をしやすい場を作っていく必要があります。相手が機微な個人情報を開示するに値する相手かどうかは自己開示のハードルに大きく影響するからです。

そのため、上司と部下のオープンかつフラットな対話の場を作ることは極めて重要です。話し手と聴き手の間に築かれる信頼関係のことをラポール(Rapport)と言いますが、その形成のためには聞き手側が相手を尊重し、受け入れ、その姿勢を相槌などで伝えていくことが求められます。

また、聞き手側の自己開示も重要です。聞き上手と呼ばれる人は適切に自己開示をすることができます。信頼関係を作るためには、こうした聞き方側の自己開示や傾聴のトレーニングを行うことも必要です。

社員同士のフラットな対話の場を作る

上司と部下の間に信頼関係を作ることと同時に、社員同士が自己開示をできる場を定期的に設けていくことも大切です。相手を知ることでその「譲れない価値観」を尊重することができ、そもそも自分の価値観が他者にとって受け入れられないものである、また自分も受け入れられない価値観があるということの気づきが生まれるからです。

こうした場は直接的に業務生産性を挙げるものではありませんが、職場の風通しをよくし、人間関係の軋轢を低下させることに繋がります。さらに、組織として社員一人一ひとりの価値観に配慮する姿勢を見せることは、組織に対する信頼感の向上にも繋がります。

「1tonari」のハラスメント対策:企業人経営プログラム

「1tonari」の企業人経営プログラムでは、社員一人ひとりの「譲れない価値観」にフォーカスした診断システムを用意。ハラスメント加害の根本原因である、無自覚に自分が当然だと考えている価値観を本人の回答から言語化します。

また、その上で相互理解を目的としたワークショップを用意。ワークショップではいくつかのグループワークを通じ、自分自身の「譲れない価値観」とアンコンシャスバイアスの関わり、自分がおかしやすいハラスメント加害のリスクと被害意識を感じやすい領域について学ぶ場を提供します。

更に、定期的なフォローアップも実施。個人の「譲れない価値観」に根ざしたキャリアプランとライフプランから、人事配置・育成までハラスメントの起きにくい導線づくりを支援します。

ハラスメント対策として「譲れない価値観」を活かした職場づくりをしよう

ハラスメントは個人にとっても企業にとっても重要な問題です。一人ひとりの「譲れない価値観」を尊重した組織づくりを行い、ハラスメントの起きにくい環境を整えていきましょう。


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村井 真子

社会保険労務士・キャリアコンサルタント・MBA家業の総合士業事務所にて実務経験を積み、2014年愛知県豊橋市にて開業。LGBTQアライ。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』等。

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