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恋人に自分のことどう表現する? 自己呈示のメリット・デメリット

恋人に自分のことどう表現する? 自己呈示のメリット・デメリット

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村井 真子

恋愛は多くの人にとって自己表現の場であり、同時に新しい役割を引き受ける挑戦でもあります。恋愛の文脈で自己呈示や役割引き受けが果たす役割について、メリット・デメリットを深く掘り下げていきます。

 1) 自己呈示と自己認知の違い

恋愛の場面では、多くの場合、交際相手に良い印象を与えようと「自己呈示」を行いがちです。自己呈示とは、ありのままの自分ではなく、相手に好まれるように自分を演出することです。この「演出」は自然な行為であり、ある程度の自己呈示は人間関係を築く上で欠かせません。

しかし、自己呈示をすることはありのままの自分を相手に伝えることではありません。そのため、自己呈示をすることによって、本当の自分として自分が考えている自分、すなわち自己認知している自分とギャップが生じることがあります。

  • 自己呈示=「相手にどう見られたいか」に基づいて自分を演出すること
  • 自己認知=「自分がどういう人間であるか」について理解すること

例えば、好きな相手の前で「完璧な自分」を演じ続けると、演じている自分が「本当の自分」から離れていくという感覚に陥ることがあります。このギャップは自己疲労や相手との不信感を生む原因になりかねません。また、自己呈示によって「作られた自分」のことを相手は好きなのではないかと不安になり、相手を試したり、自己犠牲的な恋愛に発展してしまうケースもあります。

自己呈示が自己認知と乖離することで生じるトラブルの典型例として、恋愛初期に「理想の自分」を演じすぎた結果、相手に誤解を与えたケースが挙げられます。

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【事例】 自己呈示が自己認知から乖離してトラブルになった例

リエさん(20代・女性)は学生時代好意を抱いていたトオルさん(20代・男性)が「好きなタイプは明るくて友だちが多い子」と語っているのを耳にし、社交的に振舞おうと色々な飲み会やサークルにも参加。次第にそのような場にもなじめるようになってきたため、意を決して告白して交際に至りました。

トオルさんは自分の趣味である音楽ライブや趣味のコミュニティにも積極的にリエさんを伴うようになりましたが、リエさん自身は次第に疲弊し、そのような場で心から楽しむことが難しくなってきました。しかし、トオルさんに嫌われたくない、幻滅されたくないと笑顔を絶やさないように努力を継続。気が付いた時には、今更無理をしていることを言い出せない状況に陥ってしまいました。

関係が進むにつれて、リエさんは次第に「演じる自分」に疲れを感じ始めるようになりました。一方で、トオルさんはリエさんが自分のために無理をしているのではないかと感じ始め、本当はこうした場が好きではないのだろうと考えるようになりました。そのためトオルさんはリエさんを自分の趣味の場に誘わなくなってきたため、リエさんは別れたくないとより一層トオルさんの希望する女性像に沿うような行動をとったり、必要以上に連絡をするようになりました。その結果、トオルさんから一方的に別れを切り出されてしまうことになりました。

この事例は、自己呈示が長期的には自己認知と乖離することで、相手に誤った期待を抱かせたり、関係性に悪影響を及ぼすことがあるということを示しています。

2)自己呈示の恋愛テクニックとしてのメリット

自己呈示は恋愛においてテクニックとしても活用されています。これは相手に好印象を与え、関係を築くための有効な手段です。以下に、具体的な自己呈示のテクニックを3つ紹介します。

1 好意の返報性を利用した自己呈示

好意の返報性とは、「相手に好意を示すことで、相手も自分に好意を抱く可能性が高まる」という心理的効果です。自己呈示において、この効果を利用するためには、相手に対して積極的に関心を持ち、適切なタイミングでポジティブなフィードバックを返すことが重要です。

具体例:相手が話している内容に対して積極的に頷き、共感を示すこと。特に、相手が自分の趣味や興味について話している際に、その内容に対して肯定的な反応を返すと、相手は「自分に興味を持ってくれている」と感じ、好意を持ちやすくなります。

2 外見や第一印象に気を配る自己呈示

外見的な魅力は、自己呈示において非常に大きな影響を持ちます。清潔感のある服装や、相手に合わせたスタイルを意識することで、初対面の際やデート時に良い第一印象を与えることができます。恋愛においては、第一印象がその後の関係の進展に大きく影響するため、自己呈示として外見に気を配ることは重要です。

具体例: デートの前には相手の趣味や好きなスタイルに合わせた服装を選ぶこと。また、清潔感のある見た目や、控えめながらも自信を感じさせる姿勢を持つことで、相手に好印象を与えられます。例えば、相手がカジュアルなスタイルを好むなら、カジュアルな服装でリラックスした雰囲気を演出することが効果的です。

3 共通点を強調する自己呈示

人は、自分と共通点が多い相手に対して親近感を持ちやすくなります。自己呈示のテクニックとして、共通の趣味や価値観、経験を強調することで、相手との心理的な距離を縮めることができます。この「共感の自己呈示」は、相手に対して「自分と似たような人だ」と感じさせ、関係を深めるための効果的な手段です。

具体例:相手が好きな映画や音楽について話しているとき、自分も同じものが好きだということを自然に伝えること。共通の趣味や体験を見つけたら、その話題を膨らませて、相手とより深いコミュニケーションを取ることができます。「私もその映画が好きです! 特に○○のシーンが印象的でした」といった具体的な共感を示すと、相手に強い親近感を与えることができます。

3)自己呈示の恋愛テクニックとしてのデメリット

恋愛において自己呈示を使うことは、一見すると効果的なアプローチのように思えますが、いくつかのデメリットも伴います。以下に、そのデメリットを3つ挙げ、具体例を交えながら説明します。

1 自己認知と乖離した自己呈示が疲労感を生む

自分の本来の性格や行動パターンと乖離した自己呈示を行い続けることで、精神的・肉体的に疲れやすくなります。自分を偽り続けると、相手との関係を維持すること自体が負担になり、本来の自分とのギャップが広がることで疲労が蓄積しまう可能性が高まります。

2 相手に強い期待を持たせてしまう

自己呈示を使って相手に「良い自分」を見せ続けると、相手がその自分を「本当のあなた」として受け入れてしまい、後で本当の自分を見せた時にギャップが生じる可能性があります。 初めの印象が強すぎると、後から本当の自分を見せた時に相手の期待を裏切ってしまい、信頼関係が崩れる危険性があります。

3 自己呈示をやめるタイミングが難しい

自己呈示を続けていると、その振る舞いが相手に対して「普通の自分」として定着し、いつ、どのように本当の自分を見せるかのタイミングを見失いやすくなります。また、自己呈示を続けることで関係を築いたと感じている場合、自己呈示をやめるときに関係性自体を壊してしまうのではないかという惧れを抱きやすくなります。

4)自己呈示と役割引受

恋愛において自己呈示と密接に関わるのが「役割引受」です。恋愛関係が深まるにつれて、私たちは相手に対して特定の役割を引き受けることが多くなります。例えば、頼りがいのあるパートナーとして振る舞ったり、家庭的な面を強調するなど、社会的・文化的に期待される役割を担うことがあります。

この「役割引受」は、最初は自己呈示の一環として始まることが多いですが、次第にその役割が内面化されることがあります。つまり、自分が演じている役割が「本当の自分」と感じ始め、その役割がアイデンティティの一部になるのです。

内面化が進むと、演じることに違和感を感じなくなるため、自己呈示との乖離は少なくなる可能性があります。しかし、一方で内面化された役割が本来の自己とは異なる場合、それが自己のストレスや内面的な葛藤を引き起こすことがあります。例えば、相手のために「完璧な彼」「完璧な彼女」を演じ続けた結果、自分自身の本当のニーズや欲求を抑圧してしまうという問題が生じたり、役割引受した内容と異なる行動をとることで関係に軋轢が生じる可能性が高まります。

5) 恋愛における自己呈示と自己理解

恋愛関係においては、「ありのままの自分(自己認知している自分)」と「演じる自分(自己呈示している自分)」のバランスをいかに取るかが鍵となります。自己呈示を完全に排除することは不可能ですが、自分の本質を見失わないようにすることが重要です。また、役割引き受けも、自己犠牲ではなく、互いに支え合うための手段として活用するべきです。

6)恋愛においてもありのままの自分をきちんと見つめることが重要

恋愛における自己呈示と役割引受は、適度に行えば関係を良好に保つための強力なツールとなりますが、過剰に依存すると自己認知との乖離を生み、トラブルの原因となることもあります。

恋愛において、自己理解を深めることは非常に重要です。自己理解が深まることで、自分がどのような恋愛を望んでいるのか、どのようなパートナーシップを築きたいのかが明確になり、相手との関係もより健全で持続的なものとなります。そのためには、自分の価値観を正しく把握することが欠かせません。価値観は、私たちが日常の選択や行動を決定する際の基盤であり、恋愛においてもどのような相手を選び、どのような関係を築くかに大きな影響を与えます。

しかし、この価値観は多くの場合、無意識のうちに形成されています。その背後には、私たちがどのような家庭で育ち、どのような環境で成長してきたかという「成育環境」が大きく関わっています。幼少期に親から受けた影響や、家庭内での経験が、私たちの価値観の土台を形作っています。そのため、恋愛において自己理解を深めるためには、自分の成育環境を振り返り、その中でどのような価値観が形成されたのかを理解することが必要です。自分の価値観を見つめ直すことで、より充実した恋愛関係を築くための一歩を踏み出せるでしょう。


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村井 真子

社会保険労務士・キャリアコンサルタント・MBA家業の総合士業事務所にて実務経験を積み、2014年愛知県豊橋市にて開業。LGBTQアライ。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』等。

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