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子どもの成長を支える「親の価値観」との向き合い方

子どもの成長を支える「親の価値観」との向き合い方

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1tonariメディア編集部

子どもの成長を支えるには、親が無意識の価値観や期待を子どもに押し付けず、子どもを一人の人格として尊重することが大切です。親が自分の価値観を言語化し向き合うことで、子どもは自分の意思で行動し、自立と自己成長を育む基盤が整います。この記事ではしつけと虐待、過保護などの親が抱える悩みを通じ、親の価値観がしつけにどう反映されるかを解説します。

1)「しつけの仕方が分からない」現代の子育て事情

令和5年に行われた岐阜県の調査によると、回答者の44.6%が家庭の教育力が低下していると答えました。その理由として、「しつけや教育の仕方が分からない親の増加」と回答した人は69.2%、「過保護や甘やかし・過干渉の親の増加」と回答した人は63.4%に上ります。

親が家庭において子供に対し、しつけを行うことは子供の健全な成育過程において必要なことです。しかし、しつけと称して体罰や(虐待行為)を行っている例も残念ながらあるようです。令和4年度中に、全国の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は 219,170 で、過去最多となりました。前年度比では5.5%であり、子どもへの虐待は社会的問題として認知されています。

2)しつけと虐待の違い

しつけと虐待は似て非なるものです。こども家庭庁では、その違いを次のように説明しています。

しつけこどもの人格や才能などを伸ばし、社会において自律した生活を送れるようにすることなどの目的から、こどもをサポートして社会性を育む行為
虐待こどもの身体に何らかの苦痛を引き起こし、または不快感を意図的にもたらす行為(罰)
電球

事例

サトシくんは、お母さんと公園に来て、ひとりで滑り台で遊んでいます。最初はサトシくんしか子供がいなかったので、何回も繰り返し滑ることができました。その後子供が増えてきて、サトシくんが順番待ちをしなければならなくなりました。サトシくんは滑り台のてっぺんから離れず、ほかの子供たちがイライラしています。サトシくんのお母さんは「サトシくん、友達が来たから譲ってあげよう」と何度か声を掛けましたが、サトシくんが動かないので、「いい加減にしなさい!あんたみたいに言うことを聞かない子はうちの子じゃありません」と怒鳴りつけ、サトシくんが泣き出すと「泣くぐらいなら最初から言うとおりにするべきだったでしょ。あんたなんか生まなきゃよかったわ」と言って滑り台から離れていきました。

上記の事例では、最初の声掛けはしつけとして行われたものと言えます。自分ひとりで遊具を独占しないこと、他の子どもと遊具を共有すること、そのために順番待ちをする、と言ったことは社会的秩序を守り、周囲と良好な関係性を築くために必要な考え方だからです。しかし、子どもが言うことを聞かないからと言って、泣くほど怒鳴ったり、「生まなければよかった」といった存在を否定する言葉を掛けることは虐待に当たります。なぜなら、これは反省を促すという名目で子供の心を傷つける行為になるからです。

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの調査では、しつけのために子どもに体罰をすることに対して、実は大人の約6割が肯定的な回答をしています。また、同調査では体罰の内容の違いによる反応も調査をしており、「たたく」という言葉でどこまでをしつけとして許容するかという等に対して「お尻をたたく」では半数が、 「手の甲をたたく」では48.1%と半数近い大人が容認する旨の回答をしています。

これは体罰の一例ですが、親が与える罰によって子どもの行動が変わったとしても、それは、子ども自身が自分で考えて行動した姿ではありません。つまり、「叩かないだろう対象」の前では行動を変化させる可能性は低くなり、子ども自身の成長を阻害するものなのです。

3)親の甘やかしと子供の意思を尊重することの違い

一方で、親が甘やかしすぎてきちんと子供のしつけが出来ていない、家庭教育が出来ていないと考える人も増えています。家族心理学の研究では、甘やかしをする親は子供に自分を重ねており、子ども自身が必要な時に甘える力を奪っていると警鐘を鳴らしています。

甘やかし親が子供の機嫌をとることで、子供を養育者自身の思うように動かそうとする行為。日本においては過保護や過干渉も含む概念として使われる。
子供の意思を尊重する子どもが親に安全安全を保証されながら自律的な探索行動を営むことををサポートする行為。
電球

事例①

5歳のサヤカちゃんが夕食の時間に「お菓子が食べたい」と言い出しました。母親は子どもが機嫌を損ねることを恐れ、「夕食の後でお菓子にしようね」と提案しましたが、サヤカちゃんは納得できずに泣き始めました。泣き止ませたい一心で母親は結局「わかった、少しだけお菓子を食べていいよ」と許してしまいました。その結果、サヤカちゃんは泣けば母親が折れてくれると学び、次回も同様の要求を繰り返すようになりました。

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事例②

7歳のユウトくんが、今度友達だけで近所のお祭りに行きたいと母親に伝えました。母親は心配しながらも、「誰と行くのか、どの公園に行くのか、何時までに帰ってくるかちゃんと教えてね」「何かあったらすぐに知らせてね」「守れるならいってもいいよ」などのルールを説明し、ユウトくんの判断に委ねました。ユウトくんはルールに同意し、母親に見送られてお祭りに向かいました。ユウトくんはきちんとルールを守って時間内に帰ってきたため、母親はユウトくんが信頼にこたえてくれたことを嬉しく思うこと、安心した旨を伝えました。

事例①では、母親の行動は「甘やかし」に該当します。母親は子どもの機嫌を優先するあまり、子どもに対して一貫した態度を取れず、必要な制約を設けることを躊躇しています。これは一見、子どもの気持ちを尊重しているように見えますが、実際には子どもの欲求に合わせて母親が対応を変えてしまうということを学習させているにすぎません。このようなことが繰り返されると、子どもの自制心やルールへの理解が育ちにくくなる要因となります。また、子どもは母親の意図的な操作や機嫌取りによって、自分の行動がどのように結果に結びつくかの学びの機会を失ってしまうのです。長期的には、子どもは欲求が満たされなかったときにストレスを感じやすくなり、他者との関係性においても自分の欲求を優先しがちになるリスクがあります。

事例②では、母親が子どもの意思を尊重しつつ、安全を確保するための条件を設けています。子どもは公園に行くという小さな「自立」の経験を通じて、自分で行動を選び、責任を持つことを学ぶことができます。母親が安心して見守る姿勢を見せることで、子どもは安心感とともに自己の行動への自信を持つようになります。このような体験は、子どもの自尊感情を育み、自己決定力や問題解決力を高めることに繋がります。母親が子どもの行動や意思を操作することなく、本人の決定を尊重してサポート役に徹しており、子どもが健全な自己認識を持って成長することが期待されます。

過保護と過干渉の違い

児童精神科医の佐々木正美氏は、その著作で次のように過保護と過干渉を定義しています。

過保護子どもがのぞむことをみな与えること。子供が望むことをやりすぎること。
過干渉子どもが求めないことまでやり過ぎること。親が与えたいものだけを与えること。

親が子どもに合わせてやり、その子どもの望みをかなえることで、子どもは精神的に満たされ自ら挑戦をできるようになると佐々木氏は説いています。甘やかしの一部として受け取られる過保護ですが、結果的に子供の自立を促すものになるか、その機会を奪うものであるかという点で、過干渉とは異なるものであるといえます。

4)親が子に関わるときに気を付けるべき「自分の価値観」の押し付け

現代の子育てにおいて、親が自分の価値観や願望を無意識に子どもに押し付けてしまうことがよくあります。しかし、これは子どもの健全な成長にとって必ずしも良い影響を与えません。親がしつけと称して子どもの行動をコントロールし過ぎたり、期待や理想を押し付けたりすると、子どもは自分自身で考えて行動する機会が減り、自己決定力や問題解決力が十分に育ちにくくなるリスクが生じるからです。

「親の甘やかし」と「子どもの意思を尊重する」の違いからもわかるように、重要なのは親が自分の価値観や願望を明確にし、それが子どもにとって健全な成長を支えるものであるかどうかを意識することです。たとえば、「成功してほしい」「困らせたくない」といった思いが強すぎると、親の理想に沿うように子どもをコントロールしがちです。しかし、これでは子ども自身が自らの可能性や選択肢を広げる経験が失われてしまいます。

また、親が自分の価値観や願望を明確にすることは、しつけと虐待の違いを理解するためにも重要です。自分の価値観を振り返ることで、しつけの名目で子どもに厳しすぎる要求をしていないか、子どもの成長を支援する姿勢を保てているかを確認することができます。子どもが自分の意思で挑戦し、失敗や成功から学ぶ機会を与えることこそ、親の重要な役割の一つです。そのためには、まず親自身が自分の価値観を明確にしておくことが求められます。

5)親の価値観は子のしつけに反映される

親の価値観は、子どもへのしつけや接し方に大きく影響します。たとえば「平等であることが大事だ」と考える親は、子どもが平等に扱われることが健全な成長につながると信じ、その価値観をしつけに反映させていくでしょう。こうした価値観は、たとえば兄弟姉妹がいる家庭で、「どちらか一方に偏らないようにする」という形でしつけに現れることがよくあります。親は意識的に時間や資源を平等に分け与えようとし、一人ひとりの要求に対して平等な対応を心がけます。

一見、こうした姿勢は平等性を重んじるしつけの一環のように見えますが、場合によっては子どもにストレスを与える要因にもなりえます。たとえば、兄弟の年齢差や性格の違いを考慮せず、親が「平等」を重視しすぎた場合、かえってそれぞれの個性に合わない要求や対応をすることになりかねません。小さな子どもに対しても「お兄さんだから、妹と同じだけ我慢すべき」「妹と同じように責任を持ちなさい」と平等を求めすぎると、子どもが負担に感じたり、「なぜ自分だけが我慢しなくてはならないのか」という不公平感が生まれたりすることもあります。

特に問題になるのは、親が平等にこだわりすぎたために、子ども一人ひとりの成長段階や心理的ニーズを無視してしまうケースです。たとえば、まだ小さな子どもと少し大きな子どもが同時に泣き始めた場合、親が「平等だから両方に同じように接するべき」と考えるあまり、どちらかの子どもが急いで助けを必要としている状況でさえも対応が遅れてしまうことがあります。このような場合、年長の子が我慢を強いられたり、年下の子が負担を感じたりして、精神的な負荷が生じる可能性があります。

実際、平等への強いこだわりが過度になると、親が無意識のうちに行動を厳しく制限し、結果として子どもへの抑圧や虐待と捉えられるような行為につながることもあります。たとえば、親が兄弟間でおもちゃやおやつを完全に等しく分け与え、「平等に分けられたものを絶対に自分の意志で分けてはいけない」と教える場合、子どもが他者とのやり取りを学ぶ機会を失い、自分の意思を抑圧してしまう可能性があります。このような抑圧が繰り返されることで、子どもは自分の意思を表現することを避けるようになり、他者との関わり方に苦手意識を抱き、自尊感情の低下を引き起こす場合もあります。

このように、親が「平等」を重要視すること自体は良い考え方ですが、子ども一人ひとりの成長に合わせた柔軟な対応が必要です。しつけの際は、単に平等を重視するのではなく、子どもの個々のニーズを尊重し、適切なサポートを行うことが大切です。

6)親自身が自分の価値観を見つめなおすことが子育ての第一歩

親が子どもと接するとき、まず大切なのは「子どもは親とは別の人格を持つ存在である」という認識です。親としての期待や希望は自然なものですが、子どもが自分の分身ではなく、独立した人格として成長し、個性を発揮するのだという前提を持つことは重要なことです。

子にとって親は大きな存在であり、親が無意識に抱いている価値観や思い込みが、子どもの意思や行動に影響を与えることが少なくありません。そのため、親自身が自分の価値観を言語化し、意識的に把握することが求められます。

多くの場合、親は自分が何を大切にしているか、どう生きてきたかを意識せずに子育てを行います。しかし、親が無意識に抱く価値観が、子どもにとって無言の圧力となり、「親が望む通りにしなければ」というプレッシャーを生み出してしまうこともあります。たとえば、「勉強が大事」「良い成績を取らなければならない」といった価値観が無意識に現れ、子どもが本来持っている個性や興味を阻害することがあります。親が自分自身の価値観を把握しなければ、知らず知らずのうちに子どもを自分の期待に沿った存在へと無理に変えようとすることにもつながるのです。

そのため、親が自分の価値観や思い込みを言語化し、意識的に向き合うことは、子どもを一人の独立した存在として尊重するために不可欠です。親自身の価値観を理解することで、親は子どもが異なる価値観や目標を持っていることを認めやすくなり、子どもが自己を探求し、成長していく姿を支えるための心の余裕が生まれます。言語化のプロセスは決して簡単ではありませんが、親と子がそれぞれの価値観を尊重し合う家庭環境が、子どもが自分らしく成長していくための基盤となるでしょう。


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