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親子関係における価値観の違い トラブル事例と相互受容の重要性について解説

親子関係における価値観の違い トラブル事例と相互受容の重要性について解説

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1tonariメディア編集部

親子という関係は、多くの人にとって特別で深い絆を持つものです。しかし、たとえ親子であっても個々の価値観に大きな違いが生じることはあり、親子間での対話や関係性においてそれを原因とする軋轢が生じることもあります。ここでは親と子それぞれの人となりを軽視してしまったことで生じた事例を通じ、親子関係における価値観の違いとそれを受容することの重要性について説明します。

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【事例】母親の期待に応えるために努力したが、その努力を否定されたと感じた女性

エミさん(34歳・女性)は看護師をしている母親から「女性も教育を十分に受け、経済的に自立して生きるべきだ」と常々言われて育ってきました。エミさんの母親はそのために自分の仕事はセーブし、子どもであるエミさんの学習環境をサポートすることに徹してきました。また、そんな母親のあり方を医師である父親もまた許容し、エミさんは難関といわれる国立大学医学部へ進学。卒業後は付属の病院で研修医として働くようになりました。

エミさんは仕事上のキャリアを伸ばすため、激しい競争の中でも必死に成果を挙げられるよう寝る間も惜しんで働きました。研修医としての業務内容は多岐にわたり、かつ多忙です。また直接医療行為を行うという責任の重さや守秘義務の問題もあいまって、エミさんは実家とだんだん連絡を取らなくなっていきました。そんなエミさんのことを心配してか、実家の母親からは度々連絡がありましたが、疲労感の重さや疎遠になっている後ろめたさからエミさんはますます連絡することを疎むようになります。

そんなエミさんに業を煮やしたのか、ある時エミさんの元へ母親からの宅配便が届きました。開封すると、そこには見合い写真と手紙が同封されており、「仕事ばかりするのではなく、そろそろ女としても幸せになるべきだ」と記されていました。見合い相手の男性は医師で、自分より5歳ほど年上のようでした。

エミさんは憤慨しました。エミさんの母親は自分のキャリアを犠牲にしてエミさんを育ててきました。犠牲にしなければならなかったのは、父親が多忙な医師という仕事についていたからです。そのため、夫婦でエミさんを育てるというよりは、母親がエミさんの養育を担当し、父親がそれを可能にする収入を稼ぐ、という役割分担が家庭内でなされていました。そのことに母親は特に疑問をもっていないようでしたが、すでに自分のキャリアを構築しかかっているエミさんにはこの見合いがもたらす未来と意味は地獄のように思えました。この人と結婚したら、自分は母親のようにキャリアを手放して子どものために時間を使わなければならないのではないか? それを母親は自分に期待しているのではないか、とエミさんは考えたのです。

エミさんは母親の期待に応えるため、その男性と見合いをし、数度のデートを重ねました。男性自身は穏やかで尊敬できる性格でしたが、エミさんの両親と同じように、男性のキャリアをサポートしてくれる妻を求めていることを知り、エミさんは交際を断ることになりました。その後も2回ほど同様の出来事を繰り返し、エミさんはそのたび母親に無言で責められているような気分に陥りました。

エミさんは、今の自分のキャリアを犠牲にしなければならないような結婚や出産はしたくありませんでした。正直にそのことを母親に告げ、見合いをする意思はないことを伝えると、母親は明らかに傷ついたような顔で「私は孫の顔は見られないの?」と零しました。後で分かったことですが、母親の周囲の看護師たちはみな孫の世話に忙しく、母親は孤独感を募らせていたのです。

エミさんは母親のその言葉に深く傷つき、自分は何のために必死で頑張ってきたのだろう、と感じるようになりました。そしてそのような母親の態度になんら疑問を持っていない父親についても深い不信感を抱くようになりました。エミさんと両親との関係は次第に冷え込んでいき、没交渉の状態になってしまったのです。

親子でも価値観が異なる理由

事例まで深刻な状況ではないとしても、親子であっても価値観が異なるために衝突する、トラブルになるといった事態は日常的によくあることです。ここでは、そのような価値観のずれが生じる理由について代表的なものを3つあげて解説します。

1 親子で「お互い当然にお互いのことを理解している」という思い込みがある

親は子どもの考えや感じ方を「当然のように理解している」と思い込み、その前提に基づいてコミュニケーションを取ろうとしがちです。しかし、この前提があるがゆえに、親が子どもの本当の気持ちを聞かずに判断してしまったり、子どもも親の価値観を自分に押し付けられると感じて不信感や反発心が生じることがあります。

親子間の価値観の類似性についての研究によると、親と子どもは実は価値観が一致していないという結果が出ています。しかし、子どもが考える親(認知された親)の価値観とは高い類似性が見られることが分かりました。つまり、子どもは親自身がどのような価値観を持っているか、ということよりも、子どもが親の価値観をどのように受け取ったか、という認知のもと自分の価値観を作り上げている可能性があります。また、このことを親も知らない場合、親と子の間に前提のずれが生じ、トラブルに発展するリスクがあります。

このような事態を防ぐためには、親子であっても「前提の共有」が非常に重要です。親が「親だから分かっているはず」と思わずに、子どもの意見や気持ちをしっかりと聞く姿勢が必要です。また、長じれば子ども自身も「親はこう思うに違いない」と自分の認知した価値観で判断せず、親自身の価値観をきちんと傾聴するという姿勢をもつことも必要でしょう。

親子という極めて近しい関係だからこそ、「分かってくれる」という前提に甘えず、前提を過信しすぎないよう、互いを一人の人間として尊重する姿勢が重要です。

2 「親」自身の育てられ方が「子」の育ち方に影響する

親子は多くの場合、物理的にも心理的にも近しい距離で生活します。特に幼児期の親子のかかわりは愛着形成に大きな影響を持ちます。親が自分を見守ってくれて、大切にしてくれるーー子どもにとってそのような実感を得られることは「自己肯定感」を育む礎になるものであり、その重要性については衆目を得ているところです。

しかし、このような理解が周知されているとしても、子が必要としているものを適切に与えられる親は多くはありません。その障害となる最も大きなものは、親自身が子どものころに与えられた経験だと心理療養士のフィリッパ・ベリー氏はその著書で述べています。

「自分がどのように育てられたか、自分が何を受け継いだかをきちんと見つめないと、過去が私たちを攻撃します」とベリー氏は言います。こうした体験のほかにも、子どもに関する期待や不満、苛立ち、自己弁護、自身の欠如なども障害になります。これらの自分の感情を適切に分析しておくことで、自分がどのようなときに子どもに対して怒りを感じるかを理解できます。「子どもは親が言うことではなく、することをする」という言葉のとおり、親自身がネガティブな感情で自分を否定したり批判していると、その方法は子どもにも受け継がれてしまうのです。

3 「親」の社会性が「子」の社会性に影響する

また、両親がどのように子に関わっているかという点に加え、親自身が社会的にどのような行動を取るかという観点も子どもの価値観形成に影響を与えます。

幼稚園児とその母親を対象としたある研究では、男児の幼稚園での攻撃性は家庭での攻撃 性や母親の攻撃性と有意な正の相関が見られ、女児でも同様の傾向を示すことを実証しました。また、母親が他者へ愛情を示す傾向がある場合、男女ともに幼稚園で同様の傾向を示すことも確認されています。

さらに、研究では父親と母親の向社会的行動が子どもの向社会的行動に優位な相関が見られることも分かっています。向社会的行動とは、「他者の利益を意図した行動であり、その結果として、他者との気持ちのつながりを強め、それをより望ましいものにしようとする(Eisenberg et al., 2006)」行動という意味で、簡単に言うと他人とどのように関わっていくかという態度を示す言葉です。この向社会的行動の傾向は子どもの性別を問わず母親の影響を強く受け、子どもは母親と類似した傾向を示します。更に、この研究ではこのような興味深い事実も判明しています。

  • 子どもの管理をする傾向がある厳しい父親と、子どもを優先する傾向があり穏やかで優しい母親の間に生まれた男の子は、母親のように社会と関わろうとする。
  • 父母共に子どもを優先する傾向があり穏やかで優しい場合、その二人の間に生まれた女の子は、父親のように社会と関わろうとする。
  • 父母ともに子どもの管理をする傾向があり厳しい場合に、男の子は母親と同様の攻撃性の傾向を持ち、その攻撃性の度合いが高い。
  • 父親がリーダーシップが強く、母親がリーダーシップが弱い場合、男の子の攻撃性は母親の攻撃性の傾向と似る。
  • 女の子は両親が管理的な傾向を持つことについて無批判、あるいは肯定的に受け止める傾向がある。

事例にあげたエミさんの例では、エミさんは両親が自分の学びや習い事の方向性をつけることについては特に疑問を持っていませんでした。しかし、だからこそ長じて自分の価値観が明確になってきたときに母親の価値観と衝突した可能性があります。

このように、親との子の関わり方が、子どもの向社会的行動、つまり社会への働きかけ方、対人関係の基礎に大きく影響するのです。

親子でも「譲れない価値観」は異なる可能性が高い

親子であっても、それぞれの育った環境や経験、時代背景が異なるため、価値観に大きな違いが生じることがあります。親の得てきた経験と子の得てきた経験はそもそも年齢分の差があります。また、同じ経験をしたとしても、その経験を得た時代や環境、本人の興味関心によって受け取られた経験量は異なるものと考えられます。

幸福度研究の分野では、遺伝が幸福に及ぼす影響は50%にとどまると説明しています。残り50%のうち、環境が影響するものは10%、残りの40%は本人の意図的な行動によるものだというのです。

つまり、親と子であっても、何をもって幸福と感じるかという価値観一つとっても異なる可能性が示唆されます。

事例にあげたエミさんの例でも、エミさんと母親では幸せに対する価値観が異なります。エミさんは自分のキャリアを伸ばしていくことを価値に置きましたが、エミさんの母親にとっては結婚することが価値になっていました。これらはそれぞれ否定されるべきものではありませんが、どちらも譲れないという事態に陥って衝突の原因になりました。何をもって幸せとするか、あるいは何を譲れないと考えるかは、親子であっても異なるのです。

親子だからこそ、互いの譲れない価値観を尊重する  

親子であっても、お互いの譲れない価値観を尊重することが大切です。親しい関係だからこそ、親が持つ価値観が子どもにとって必ずしも同じではないことを理解することが重要です。

価値観を尊重するにあたり、重要となるのは傾聴です。親子であってもしっかりと言葉に耳を傾け、まずはその言葉を真剣に受け止めて考慮するという態度を持つことによって、相互に一人の人間として尊重している姿勢を示すことができます。

自分にとってもポジティブな価値観に共感するのは比較的簡単ですが、ネガティブな価値観をあるがままに受け入れることは難しい場合もあります。しかし、ここで重要なのは共感することではなく、「互いが違う価値観を持っている」という認識を持つということです。このことは親子という極めて近しい関係にある個人にとってとても重要なことだと言えます。親子関係は長期的なものであるからこそ、一方的に「親はこう思っているのだろう」「子どもはこう考えているに違いない」という自分の思いこみに基づいて行動することはリスクです。

しかし、親子であるがゆえに、お互いの価値観を明確化させることは時に痛みも伴います。特に親が子の価値観を尊重しようとするとき、子が自分と異なる価値観を持つことは自分がないがしろにされていると感じる可能性もあります。それは真実ではありませんが、そう思う可能性があると感じられることは子どもにとって親との関係にひびが入ることを意味し、自分の価値観について打ち上げることをためらう原因になりえます。

そのような状況を踏まえ、親子間で適切な人間関係を保ちたいと思うのであれば、親と子が安心して価値観について話す場を設けることや、適切なツールを使って話し合うなどの仕掛けをつくることが必要です。

このような場や仕組みづくりをすることで、親子であってもそれぞれが持つすべての価値観に共感できない可能性や、大事にしたいと考えている価値観が異なる可能性を理解し、それを尊重しあう姿勢を持つことができるでしょう。


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「ドボン診断」とは、自分でも認知していないこともある「譲れない価値観」を見える化するツールです。家族心理学の専門家が監修し、解像度がばらつきがちな「価値観」を共通の指標で数値化します。これにより、一人一人が育ってきた環境や、そこから育まれる「譲れない価値観」を家族心理学の知見から可視化でき、人間関係の改善に繋げられます。

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