この記事では、友達の成功に対する嫉妬や焦りの心理を「社会的比較理論」に基づいて解説しています。友人との比較は自己評価に影響を与える一方、自分の価値観や目標を再確認し、自分らしい幸せを追求する機会にもなります。
目次
1)友達の成功が素直に喜べない理由
友人の成功を見て、「どうして自分はこんなに気にしてしまうのだろう?」と悩むことは少なくありません。友達の成功は特に目に入りやすく、また「自分と同じ立場」だからこそ強い影響を与えます。同じような環境や目標を持つ友人がいると、自分の現在の位置を把握しようと、その友人と自分を無意識に比較し、どうしても「自分は劣っている」と感じることが出てきます。
この「比較してしまう」感情は、私たちの心が持つ自然な反応の一部でもあります。この心の動きは心理学で「社会的比較理論」と呼ばれ、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。この理論によれば、私たちは社会に適応するために自分に対して評価を必要とするのですが、テストのような客観的な評価の基準がなかったり、あるいはそれが使えないような場合は、他人と比べることでその「基準」を見つけようとするのです。
【事例】友達との友情と嫉妬のはざまで
アキラさん(男性・10代)とヨウヘイさん(男性・10代)は大学の同級生で、同じ専攻に進んでいます。二人は出身地が同じ、両親の職業や兄弟構成も似ていたことで入学草々に意気投合し、週に1度は顔を合わせる仲になっています。アキラさんはアルバイトをしながら成績も良好で、学業と仕事をうまく両立させています。
ある日、アキラさんはヨウヘイさんと話をしていて、アキラさんが「最近、課題と試験勉強が大変で、アルバイトができていない」と悩んでいることを知りました。アキラさんはヨウヘイさんに親身にアドバイスをしてあげながら、自分はうまくやれていることを内心得意に思いました。しかし、その後、アキラさんはヨウヘイさんが大手企業の研究室にいる先輩からインターンに誘われていることを知りました。自分には声がかかっていないことで、アキラさんはヨウヘイさんに出し抜かれたように感じ、少し友達としての付き合い方を考えたほうがいいのかもしれないと思いだしました。
2)友人と比較することによって自分の立ち位置を確認する心理
自分と他者を比べるとき、比較対象と感じ方によって、私たちの心理は次のように変化します。
比較内容において、自分のほうが優れていると感じるとき | ポジティブな気分になる。自尊心が向上する。 |
比較内容において、自分のほうが劣っていると感じるとき | ネガティブな気分になる。自尊心が低下する。改善へのやる気が出ることもある。 |
事例においては、アキラさんは最初ヨウヘイさんに対して「うまくやれている」と感じ、得意になっています。これはポジティブな感情が喚起されている例です。しかし、その後実はヨウヘイさんがインターンに誘われていることを知り、アキラさんはネガティブな気分になっています。これは、ヨウヘイさんに比較して自分が劣っていると感じたことに起因します。
これは、二人が親しかったからこそ起こる比較でもあります。
例えば、インターンに誘われたのがヨウヘイさんではなく、学年で最も優秀だと言われて圧倒的な有名人であるような学生であれば、アキラさんは出し抜かれたと感じることもなかったでしょう。アキラさんは自分と同じような成績で、同じような境遇であるからこそヨウヘイさんと比べてしまうところがあるのです。
友人関係にある人とは、そもそも自分と似た環境や世代など、共通する要素をもっていることが多いものです。だからこそ、自分が社会においてどのように位置づけられるかということを確認する際に比べる基準になりやすいのです。
3)友達と比較することで生じるネガティブな効果
友達との比較によって生じるネガティブな効果には、以下のようなものがあります。
自己肯定感の低下
友達と比較することで、自分が劣っていると感じる場面が増えると、自分自身に対する評価が低くなり、自己肯定感が下がります。自己肯定感が低いと、日常生活において物事を前向きに捉えられなくなり、挑戦する気持ちが抑えられます。
焦りや不安の増加
友達が自分よりも先に進んでいると感じると、遅れを取っているような焦りや将来への不安が増します。これは「相対的剥奪理論」として説明されているもので、周囲と比べて自分が不利な状況にあると感じると、強い不安や焦りを感じやすいという現象です。この感情は精神的なストレスとなり、物事に冷静に対処できなくなることもあります。
友人関係の悪化
友達と比較して劣等感や嫉妬心が生まれると、友人との間に不信感や距離感が生じやすくなります。この心理的な距離感が積み重なると、関係性がぎこちなくなり、場合によっては疎遠になる可能性もあります。
4)友達と比較することで得られるポジティブな効果
友人と比較することによって得られるものはネガティブな感情だけではありません。ポジティブな効果としては次のようなものが挙げられます。
モチベーションの向上
友達の成功や努力を目の当たりにすることで、自分も同じように頑張ろうという気持ちが湧き上がります。自分よりも優れている人と比べることで、目標や理想が明確になり、それに向けて努力する意欲が生まれやすくなる現象です。
自分の好み、価値観の明確化
比較することで、友達との違いや、自分にとって何が重要なのかが見えやすくなります。たとえば、友達と比較した際にさほどネガティブな気持ちにならない場合は、「自分はあの分野にそれほど興味がない」と気が付くことができます。
自己評価の再確認
友達との比較を通じて、自分の成長や進歩を客観的に捉え直すことができます。過去の自分と現在の自分を振り返り、今まで達成してきたことや改善した点を見つけることで、自己評価が安定し、前向きな自信につながります。
5)友達と比較する前に「自分が何を求めているか」を明確に
友達の成功に対して喜べないことは自然な心の動きであることも多いのですが、それは自分の評価を他人と比較することで定めようとすることによるものです。友達との比較によってよい効果が得られることもありますが、嫉妬や焦りなどネガティブな感情にとらわれてしまうと自分自身を追い詰めてしまう可能性もあります。
その観点から重要なのは、「自分自身が求めるものは何か?」を見極めることです。
他人の目標や成功を意識するあまり、自分が本来何を大事にしていたのか見失なってしまうことは少なくありません。自分の理想や価値観を再度確認し、自分にとっての「幸せ」や「成功」とは何かを考えることで、他人の基準に左右されず、自分らしい人生を歩むことができるようになります。
また、友達と比べて焦りを感じたとき、自分が過去に成し遂げたことや乗り越えてきたことに目を向けるのも一つの方法です。「自分もここまで来た」「自分なりの成長があった」と感じることで、自己肯定感が育まれ、他人に左右されにくくなります。
6)友達との比較ではなく自分自身のありかたで幸せをつかむ
他人と比較してしまい、ネガティブな気持ちになったときは、一度気持ちを切り替えて自分の得意なことや自分ならではの強みを見つけることに集中してみましょう。友人の成功は自分の価値を貶めるものではありません。友人の成功は事実として受け止めるにとどめ、むしろ自分がその事実をどう受け取ったかということが重要です。
友達の成功を見て焦りを感じるのは、特別なことではなく、誰もが経験する感情です。しかし、この「友達と比較する」という現象が私たちに示してくれるのは、他人の評価を基準にするだけでなく、私たちが「自分がどうありたいか」を見つけるチャンスでもあります。成功や幸せの基準は一人ひとり違うもの。友達の成功をうらやむのではなく、自分らしい目標を持って進むことが、幸せな人生を歩む鍵となるでしょう。