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夫婦関係を科学する①夫婦の間における「コーピング」とは?

夫婦関係を科学する①夫婦の間における「コーピング」とは?

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1tonariメディア編集部

夫婦が長く幸せな関係を築く鍵は、互いの「価値観」だけでなく「ストレス対処法」を理解し合うことにあります。本記事では、夫婦間の「コーピング」に着目し、結婚生活の中で避けられないストレスを乗り越えるヒントを探ります。

多くの人が結婚相手に求めるものとは何でしょうか。漠然とした憧れではなく、現実的に結婚を考えている多くの人は、ドラマのような劇的な出会いや恋愛ではなく、当たり前の日常生活のなかで一緒に幸せを育めるパートナーを探しているのではないでしょうか。

実際に、結婚相手に求める条件は、年齢や性別を問わず「価値観が近い」「一緒にいて楽しい」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」が上位を占めています。なかでも「価値観が近い」は割合が高く、60〜70%の人が条件として挙げています。

一方で、「容姿・ルックスに好感が持てる」、「恋愛感情がある」などの条件は20~30%程度に留まっており、結婚相手という生涯のパートナーを選ぶ上では、そこまで重要視していない人が多いようです。

「恋愛と結婚は別物」という言葉が世の中に浸透していることからもわかる通り、多くの人は長期的に安定的な関係性を築くことができるパートナーを求めているのです。

「価値観が近い」「一緒にいて楽しい」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」の3つの条件を備えた相手を求めているということは、多くの人が「安らげる居場所」を求めていると言い換えることができるかもしれません。

しかし、これらの条件がそろった相手とであれば、こうした関係を作っていけるのでしょうか?

今回は「夫婦関係を科学する」と題して4回にわたって、恋愛や結婚に関する学術研究を参考にしながら、「幸せな夫婦生活の条件」について考えていきます。初回となる本記事では「コーピング」という概念に着目して、生活の中で避けられないストレスにどのように夫婦で対処していけるのかを考えていきます。

そもそもコーピングとは?

今回のテーマである夫婦関係の話に入る前に、まずはコーピングという概念について押さえておきましょう。コーピングとは、日常的に経験する苛立ちや不快感等のストレスへの対処を指す心理学の用語です。

例えば、ストレスの原因を解決しようと工夫を凝らしたり、ストレスを和らげるために愚痴をこぼしたりする行為がコーピングの代表的な例です。ほかにもストレスを発散するためにカラオケで大声で歌ったり、リラックスするためにマッサージに行くことなどもコーピングに含まれます。

世の中に、ストレスとの向き合い方を教える自己啓発本の類が氾濫していることからもわかる通り、現代人の多くは何らかのストレスを抱えています。

「○○をすればストレスから解放される!」と喧伝する自己啓発本やセミナーの中には、怪しげなものもたくさんありますが、科学的な知見に基づく、学術的に有効性が認められたコーピングの研究も着実に進んでいます。

「人はどのようにストレスに対処しているのか」を科学的に探求する研究成果は、ストレス社会で生きていく現代人たちにとって役立つさまざまなヒントを提供してくれます。

夫婦間におけるコーピングを知ることの重要性

「結婚」を考えるうえでも、この研究分野の成果は示唆に富んでいます。なぜなら、男女共同参画白書の結果が示す通り、多くの人が結婚に求めているのは「安らげる居場所」を作ることだからです。仕事をはじめ、さまざまなストレスを抱えて帰る家が、自分にとって「安らげる居場所」であってほしいという思いは誰もが共感できるところでしょう。

コーピングに関する初期の研究では、「個人がどのようにストレスに対処しているか」ばかりが注目されてきましたが、最近の研究では「夫婦」をはじめ、人とのかかわりのなかでのストレスへの対処に関する研究が進んでいます。

考えてみれば当たり前のことですが、例えば「仕事で悩んで愚痴をこぼす」というコーピング行動は、愚痴を聞いてくれる相手がいて初めて成立する行為です。それを踏まえると、生活を共にする夫婦においては、夫と妻がそれぞれどのようにストレスに対処するか?という個人レベルのコーピングだけでなく、夫婦二人で一緒にどのようにストレスに向き合うか?というパートナーとしてのコーピングが極めて重要であることがわかります。

こうした研究は、「○○な夫婦は長続きする」や「△△ができないと結婚生活はうまくいかない」というような巷に溢れる結婚に関するさまざまな迷信とは異なり、科学的な研究成果をもとに夫婦の関係や幸せについて重要なことを教えてくれます。

「価値観が近い」とはどういう意味なのか?

さて、冒頭でも紹介した通り、結婚相手に求める条件に関するアンケート調査によれば、「価値観が近い」「一緒にいて楽しい」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」がトップを占めています。なかでも「価値観」という言葉は結婚相手や恋人を探すうえでの頻出ワードです。

しかし、よく考えてみると「価値観が近い」や「価値観が合う」という言葉が、どのようなことを指しているかはとても曖昧です。

例えば、「映画を観て同じタイミングで泣いた」というのは素敵なカップルのエピソードではありますが、これを結婚相手を選ぶ上で絶対に譲れない条件に挙げる人はほとんどいないでしょう。「お互い週末はキャンプに行くのが好き」というように趣味が同じ相手とは楽しい時間を過ごせるかもしれませんが、やはり生涯のパートナーに不可欠な条件かというと疑問が残ります。

そう考えると、「価値観が近い」や「価値観が合う」という言葉は、単に「感性が近い」や「趣味が合う」ということではなく、もっともっと日常生活に密接にかかわる部分を指しているといえるでしょう。

実際に、世の中には、映画や音楽に対する感性が合わなくても、共通の趣味がなくても幸せな結婚生活を送っている夫婦がたくさんいます。では、夫婦として暮らしていくなかで絶対に譲ることができない「価値観」とは何でしょうか?

その答えの一つが夫婦間におけるコーピングなのです。

夫婦のコーピングの分類からわかること

やや専門的な話になりますが、結婚に関するコーピングを分析する視点は大きく4つに分類することができます。ただし、この記事でお伝えしたいのは、4つの分類の細かい意味ではありません。大切なのは、「夫婦として暮らしていく中でどのようなストレスに対処するか」という一見単純な問いを科学的に捉えると、これだけ複雑な要素に分解されるという事実です。そのため、ここでは4つの分類の概要だけを簡単にご紹介します。

  1. 結婚生活の文脈の中で行われる個人のコーピング行動の分析

    結婚に関連するストレスに対して、夫と妻がそれぞれどのように対処するかに関する研究です。例えば、仕事と家庭生活を両立しようとする際に生じるストレスに対して、それぞれがどのように対処しているかなどが調査されています。

  2. 片方のコーピングが相手に与える影響の分析

    自分が抱える困難へのコーピングが、相手にどのような影響を与えるかを分析する研究です。例えば、ある共働き夫婦を対象にした研究では、妻がストレスの要因そのものを解決しようとする「問題解決」コーピングを取る頻度が高いほど、夫にもメンタルヘルスにもポジティブな影響があることが示されています。

  3. 相手との関係性をよりよくするためのコーピング行動の分析

    相手がストレスにさらされているとき、あるいは夫婦関係が上手くいっていないときのコーピングに関する研究です。例えば、配偶者が病気になって大きなストレスを抱えているときに、パートナーとしてどのように対処するかや、意見が合わないときにどのように問題を解決しようとするか(我慢するか)などが二人の関係に与える影響が研究されています。

  4. 夫婦としてのコーピングスタイルの分析

    パートナー間のやりとりに注目して、双方のかかわりの中でどのようなコーピングが行われているかの研究。こうした研究ではさらにどのような二者コーピングが行われているかを細かく分類し、それぞれの行動が夫婦関係に与える影響などを分析しています。

こうした研究では、さまざまな実験や調査を行いながら、より詳しくコーピング行動が夫婦関係にもたらす影響を分析しており、どのように振る舞いが夫婦の関係性に良い影響を与えるか、あるいは夫婦関係にネガティブに作用するかを学術的に明らかにしています。

ただし、こうした研究成果はもちろん重要なのですが、こうした研究をそれぞれの夫婦関係にそのまま当てはめることができない点には注意が必要です。

夫婦の形は夫婦の数だけあるのが当たり前です。そのため、自分自身の夫婦関係を考える上では、こうした全体的な傾向を教えてくれる研究成果を参考にしつつも、自分と相手にあったコーピング行動を探ることが重要です。

研究が教えてくれる分類からは、夫婦のコーピングを考える上では、大きく2つの要素を考える必要があることがわかります。

① 自分と相手がストレスにさらされたときに、それぞれどのようなコーピング行動をするか(個人のコーピング行動の特性)

② 夫婦としてどのようなコーピングスタイルを望むのか?(夫婦のコーピングスタイルの特性)

ずっと一緒にいられる関係性を築くためのコーピング行動とは?

多くの人は結婚に対してさまざまな憧れを抱いています。

結婚式、新婚旅行、出産・子育て、マイホーム…思い描く理想の結婚は人それぞれですが、素敵な未来を想像して夢を膨らませている人は少なくありません。より現実的に、一生を共にするパートナーを探している人であっても、大なり小なり結婚に対する期待があるはずです。

それ自体は当然のことですが、長い結婚生活のなかではどれだけ仲の良い二人であっても、うまくいかないタイミングがあり、また想像もしていなかった困難にも直面します。

病気、仕事での苦労、親の介護など、「幸せな結婚生活」を想像するなかでは、ついつい忘れてしまいがちなさまざまなストレスにさらされます。こうしたストレスに直面して相手が悩んでいるとき、あるいは意見の相違やすれ違いが続いてしまったときに、適切にコーピングできるかどうかが「ずっと一緒にいられる関係性」を築けるかどうかの分かれ道なのです。

ここで重要になってくるのが、先ほど取り上げた「個人のコーピング行動の特性」と「夫婦のコーピングスタイルの特性」です。この二つの掛け算で、相手とともに夫婦としてストレスに対処していけるかが決まるといっても過言ではありません。

例えば、「愚痴を言う(情動処理型コーピング)」によってストレスを軽減できる特性を持つ人と、愚痴を聞くことが大きなストレスになってしまう人の相性はよいとは言えないでしょう。

もちろん、だからと言って絶対にパートナーとして成立しないわけではありません。そうした場合であっても、例えばそもそものストレスの原因となっている問題に一緒に取り組むこと(支持的な二者コーピング)ができれば、苦手な「愚痴を聞くこと」を回避しつつ、妻の満足度を高めることもできるでしょう。

しかし、これも難しい場合は「個人のコーピング行動の特性」の違いが、どちらかの負担(愚痴を聞いてもらえない/ずっと愚痴を聞かされる)になってしまい、長期的なパートナーシップを築くことは望めないでしょう。

逆に、結婚するまでの生活スタイルや将来のビジョンが異なる二人であっても、それによって生じたストレスに対して、一緒に情報を収集して話し合ったり、夫婦でリラクゼーションをすることができるスタイル(共通の二者コーピング)をとることができれば、徐々にお互いの考え方をする合わせながら、お互いに無理のない折衷案を見つけていくこともできるでしょう。

ここで押さえていかなければならないポイントは、「○○をすれば問題が解決!」「△△という言葉を避けることで幸せな夫婦生活を築ける」というような魔法のようなコーピング行動は存在しないということです。

もちろん、研究が示すネガティブな影響を与える可能性の高い行動を回避することも重要ですが、それ以上に重要なのは、自分自身のコーピング行動の特性を知り、夫婦として目指したいスタイルを知るということです。

このポイントが整理できていれば、生涯のパートナーを探すうえで欠かせない「ずっと一緒にいられる関係性を築けるか」という判断をするうえで大きな助けになるはずです。

まとめ:コーピングを考えることで、曖昧な「価値観が合う」を可視化できる

今回はストレスに対処する行動である「コーピング」に着目して、ずっと一緒にいられる関係性を築くための条件を探りました。専門用語もたくさん出てくる心理学の研究は、なかなか馴染みのないものですが、実は自分に合った結婚相手を探すうえでも役に立つ実践的なヒントが隠されています。

夫婦のコーピングの研究が示す通り、パートナーとして生活を共にするなかでは、お互いがさまざまな形で個人的なコーピング行動をとり、また一緒に夫婦としてストレスに対処していくことになります。

長い結婚生活では、病気や仕事の苦労をはじめ、予測できないストレスに直面することは避けられません。そうしたときに、本当にパートナーとして一緒に居続けることができるかどうかは、「個人のコーピング行動の特性」と「夫婦のコーピングスタイルの特性」の掛け算です。

自分にぴったりの相手を見つけるためには、まずは自分のコーピング行動の特性と、自分が理想とする夫婦のコーピングスタイルを言語化することから始めてみてください。


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