婚活市場のカジュアル化とすそ野を広げたマッチングアプリ。未婚化が進む現代、日本の婚活に新たな可能性をもたらすマッチングアプリの現状と課題を解説。出会いを広げつつ、結婚相手を見つけるために必要な視点とは何かを考えます。
日本では1980年代以降、未婚率が右肩上がりに上昇し、近年も高止まりの状況が続いています。その一方で、実はいわゆる結婚適齢期と呼ばれる34歳以下の未婚者の9割近くが「いずれ結婚するつもり」と回答しています。つまり、日本の未婚率の増加は、結婚を望まない若者が増加した結果ではなく、結婚したくても結婚できない人が増加した結果なのです。
その背景にあるのは、結婚観の大きな変化でしょう。現在では、恋愛結婚が当たり前になっており、お見合い結婚はわずか数%に留まっています。恋愛結婚をするためには、まずは相手と出会い、交際するというプロセスを踏む必要があります。多くの未婚者にとってハードルになっているのは、この「出会い→交際」のステップなのです。
つまり、未婚化が進んでいる原因とは、彼氏/彼女を作ることができない人の割合が増加したことにあるのです。
「出会いがない」
交際や結婚を希望していながら、恋人がいない人の多くはこのように回答しています。
その状況を打開するゲームチェンジャーとして注目を集めているのが、利用者が急増しているマッチングアプリです。近年、その市場規模は爆発的に拡大しており、大手アプリの利用登録者数は2000万人にも上っています。
マッチングアプリの利用者全員が真剣に結婚相手を探しているわけではないとはいえ、「これだけの利用者がいれば、自分にぴったりの相手がいるはず」と期待に胸を膨らませて登録する人は少なくないでしょう。
しかし、マッチングアプリの利用者の拡大は日本の未婚率の増加に歯止めをかけることができるのでしょうか?言い換えれば、本当にマッチングアプリを利用すれば、多くの人が生涯のパートナーに出会うことができるのでしょうか?
今回は、統計データなどをひも解きながら、「マッチングアプリで結婚できるのか?」をテーマに、その可能性と課題点を考えていきます。
目次
そもそもなぜ結婚できない人が増えたのか?
「マッチングアプリで結婚できるか?」を考える前に、まずは「なぜ結婚できない人が増えたのか?」を考えていきましょう。
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経済的な余裕がない
「失われた30年」と呼ばれる長期的な不景気により、結婚や子育てを考える経済的余裕がない人が増加した。
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家庭と仕事の両立が困難
働く女性の人数が増加している一方で、いまだに家事や育児に関しては女性の負担が大きいため、仕事のキャリアを大切にしている女性は結婚に踏み出しにくい。
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価値観や生き方の多様化
「結婚して子どもを育てることが当たり前」という考え方に捉われない人が増え、あえて独身を貫く選択も含めて、自分に合った生き方が受け入れやすい社会になった。
突き詰めて考えれば、結婚しない理由は未婚者の数だけあるとも言えますが、統計調査からは上記のような理由が浮き彫りになっています。
これらの理由は、それぞれが独立して存在するのではなく、複雑に絡み合っています。例えば、多くの女性が直面する「家庭と仕事の両立」という課題が解消されない背景には、男性側の無理解・非協力的な態度だけではなく、「経済的な余裕がない」ことも影響しています。経済的に余裕のない男性は何とか十分な収入を得るために、仕方がなく長時間労働をせざるを得ず、結果的に家事・育児の負担が女性に集中してしまう事態が発生しているのです。
このように日本社会が抱える根深い問題が背景にあるため、夫婦二人の努力だけで解消することは容易ではありません。こうした背景から「いつかは結婚したいけど、今はできない」と考える人の割合が増えてきていることが、未婚化の最も大きな原因だと考えられます。
お見合いの時代の終焉と「恋愛結婚至上主義」
これまで見てきた通り、未婚化の背景には、長期的な不景気をはじめとする社会構造の問題がどっしりと横たわっています。こうした社会課題に加えて、もう一つ注目すべきポイントがあります。
それが、「恋愛結婚至上主義」ともいえる結婚に対する価値観の大転換です。
戦前、戦中では当たり前だったお見合い結婚は、戦後になってもしばらくの間もっともありふれた結婚相手の見つけ方でした。恋愛結婚との割合が逆転したのは1960年代後半のことです。その後、恋愛結婚の増加に伴って、お見合い結婚の割合は減少していくものの、1990年ごろまでは約2割程度を占めていました。
現代ではわずか数%に留まっており、その代わりに恋愛結婚が1990年代半ばから常に9割近い状態をキープしています。
「親が決めた相手と結婚する」という習慣から「自分たちで結婚相手を選ぶ」ことが当たり前の時代へと変化したこと自体は望ましいものだと考えられますが、一方で結婚までのステップは複雑になりました。
- 「お見合い」→「結婚」
- 「出会い」→「交際」→「結婚」
日本の未婚率の増加の背景には、この「交際」のステップに進むことができない人の割合の増加があります。未婚者に占める交際相手がいない割合は2000年代中ごろから急増しており、18~34歳を対象にした調査では、2015年時点ですでに未婚男性の69.8%、未婚女性の59.1%に恋人がいませんでした。この割合は現在ではさらに深刻化していると考えられます。
恋愛結婚至上主義についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
恋人がいない理由「出会いがないから」を打破するマッチングアプリ?
恋人がいない未婚者の多くは、その理由を「出会いがないから」と回答しています(53.4%)。この答えは、まさに多くの人が抱える切実な悩みだといえるでしょう。特に、社会人になると出会いの場は非常に限られます。
数十~数百人規模の同世代に囲まれて暮らす学生時代と比べると、日常的に接する機会のある人数は限定的です。同じ教室で授業を受けたり、サークル活動を通じて、徐々に相手と距離を詰めていく…などという機会は社会人になるとほとんどありません。勤め先によっては、そもそも恋愛対象になり得る相手がほとんどいない場合すらあるでしょう。
また、仮に恋愛対象となり得る相手が周囲にいたとしても、社内や仕事関係の人と恋愛関係に発展するのは容易ではありません。ましてやコンプライアンスの厳しい現代。何かアプローチをしようにも慎重にならざるを得ません。
そんな状況を大きく変えてくれる可能性があるのが、マッチングアプリです。
まず、マッチングアプリを利用すれば、恋愛や結婚に関心がある人とだけ知り合うことができます。不適切な目的で利用している人が紛れているリスクはあるものの、お互いに「マッチングアプリで出会った人=恋愛や結婚に興味がある人」という前提であるため、安心してアプローチをすることができます。
また、合コンや友人の紹介などに比べても、出会いやすさ・出会える人数は圧倒的です。わざわざ仕事終わりや休日に予定を合わせて合コンを企画しても、出会える人数は数人だけ。その中に自分と相性のいい相手がいる可能性は決して高くありません。
初めてのメンバーでも盛り上がれる人であればまだしも、気まずい時間だけが流れて2時間で解散…時間とお金だけが無駄になり、「こんなことなら友達とゆっくり飲みに行けばよかった」という経験がある人も少なくないでしょう。
その点、マッチングアプリはネット上で簡単に出会ってやりとりを始めることができます。その中で、「相性がいいかな?」と思った人とだけ実際に会えばよいため、効率よく相手を探すことができます。
前述の通り、大手マッチングアプリサイトの登録者数は2000万人にも及んでおり、これだけの登録者がいれば、自分にぴったりの相手がいることも期待できそうです。
時間の面でも、お金の面でも、出会える人数の面でも、マッチングアプリは最もコストパフォーマンスの高い出会い方であるといえるでしょう。
出会えるけど付き合えない?マッチングアプリの課題
しかし、マッチングアプリを通じて、潜在的に出会える人数が数十倍、数百倍に増えたからといって、誰でも簡単に交際できるわけではありません。ましてや、そこから結婚まで行き着くカップルの数はまだまだ限られています。
実際に、これだけマッチングアプリの市場規模が大きくなり、利用者が増え続けていても、日本の未婚率の減少トレンドに変化は見られていません。
その理由として、マッチングアプリの魅力でもある「出会える人数の多さ」と「出会いやすさ」が裏目に出ている可能性が指摘されています。行動経済学の研究を参照すれば、それぞれ「決定回避の法則」、「サンクコスト効果」という作用によるものと説明できます。
決定回避の法則
人は選択肢が多過ぎると、選択を放棄してしまう心理が働きます。マーケティングの業界では広く知られているこの法則は、恋人や結婚相手を探す場合にも当てはまります。
例えば、スマホを買い替える際に、シルバー、ブラック、レッドの中から好みの色を選べることは多くの人がプラスに感じるでしょう。一方で、もしも100色展開だったらどうでしょうか?全ての色を見比べようと思うだけで気が滅入ってしまう人がほとんどのはずです。
それと同様に、実は数人~数十人の中から一番好みの相手を探す学校生活や職場の出会い、合コンなどと比べると、数万~数十万人という候補者がいるマッチングアプリでの出会いは心理的な負担が非常に大きいのです。
巷にあふれている「たくさんの人のプロフィールを眺めたものの、結局は行動しないままアプリを閉じてしまった」、「たくさんメッセージが来てしまい、返さずに終わってしまった」というマッチングアプリの失敗談の背景にはこうした人の心理が隠れているのです。
サンクコスト効果
サンクコスト効果とは、「これまで費やしたお金・時間・労力などが惜しい」という感情に引っ張られて判断が鈍り、合理的な行動を選択できなくなってしまう心理を指す言葉です。経営学の分野では広く知られている通り、投資で損失が拡大していても、「ここでやめたらもったいない」と後に引けなくなり、傷口を広げてしまうことはビジネスでは少なくありません。
ギャンブルで熱くなってしまった人が「負けた分を取り返す!」と掛け金をさらに釣り上げていき、結果的に破滅的な状況に陥ってしまうのも、この心理効果によるものです。
このように「サンクコスト効果」とは一般的にネガティブな意味合いで使われる言葉ですが、実は恋愛や結婚においては必ずしもそうではありません。
恋愛や結婚における「サンクコスト」とは、相手にかけた時間や愛情、お金などであると考えられます。なかでも特に大きいのが時間です。
一緒に過ごした時間が長くなってくると、「今の相手と別れたら、これまでの〇年が無駄になる」という感情が働きます。
この心理は、時には「周囲が大反対するほどひどい交際相手なのに別れられない…」という悲劇にもつながりますが、一方で相手とのすれ違いや価値観の相違があった場合でも「相手と向き合って解決しよう」、あるいは「○○なところは合わないけど、そこは大目に見よう」という気持ちにつながることもあります。
これにより、多少のことはあっても関係性を継続しながら、徐々にお互いの価値観をすり合わせていくことが可能になるのです。
しかし、出会いにほとんどコストがかかっていないマッチングアプリの場合は、サンクコスト効果が働きにくいため、少しでも求める条件が合わなかったり、嫌なところが見えてしまうと、マッチしなかったり、すぐに連絡を取るのをやめてしまったりすることにつながるのです。
マッチングアプリで結婚するためには何が必要なのか?
「出会いがないから付き合えない」。「付き合えないから結婚できない」。
そんな時代のゲームチェンジャーになり得るマッチングアプリ。
ですが、せっかくマッチングアプリを利用して「出会える人数の多さ」と「出会いやすさ」という武器を手にしても、それが裏目に出て、人数が多すぎてマッチングを見送ってしまったり、出会っても少しのことですぐに連絡を取らなくなってしまったりしては意味がありません。
マッチングアプリの運営側もこの課題点を認識しており、マッチング率の向上のために様々な機能を実装しています。例えば、運営側が趣味・嗜好に基づいて利用者をグループ化して、共通の趣味・嗜好を持つ相手と出会えるように設定したり、性格診断の結果に基づいて相性の良い相手をレコメンドする機能などが挙げられます。また、実際に対面で会うハードルを下げるために、運営側が二人に合った飲食店を選んでくれるサービスなども展開されています。
確かにこうした施策は、あえて選択肢を絞り込むことで「決定回避の法則」に陥るリスクを軽減したり、スムーズに対面してお互いに時間というコストをかけることで「サンクコスト効果」を発生させることが期待できるでしょう。
しかし、結婚を目標に考えた場合、これらの施策だけではまだ十分ではありません。
例えば、某大手マッチングアプリは性格診断に基づいて、利用者の「恋愛スタイル」を分析し、その相性に沿ってマッチングを薦める機能を実装しています。
確かに、デートや連絡を取る頻度、愛情表現の多さ、ほかの異性との関係性など、多くのカップルがすれ違ってしまうポイントを事前に洗い出して、感覚が近い相手とマッチできれば交際に発展した場合にうまくいく可能性は高まるでしょう。
そういう点では、魅力的なサービスであることは間違いありません。その一方で、結婚において大切なことは「恋愛スタイル」の一致だけではありません。
むしろ、生涯をともに暮らすパートナーを選ぶ際に大切なのは、より具体的に「どのような夫婦関係を築きたいか」、「どのような家族像が理想なのか」という夫婦や家族に関する価値観です。
また、「大好きなところがあること」は素敵ではありますが、長期的に一緒に生活をしていくためにはそれよりも「絶対に許せないところがないこと」の方が重要である場合も少なくないでしょう。
このように考えると、特に結婚を目指してマッチングアプリを利用する際は、どのように「この結婚の価値観」の相性と見極めるかが重要です。しかし、残念ながら、大手マッチングアプリを含めて、まだこのような機能は実装されていないのが現状です。
まとめ:「結婚」のためのマッチングアプリとの上手な付き合い方
「出会いがない」という課題を一気に解消してくれるマッチングアプリ。恋愛や結婚を考えている人であれば、使ってみない手はないでしょう。
しかし、特に「結婚相手を見つける」という視点で見た際は、漠然とマッチングアプリを利用しているだけではなかなか生涯のパートナーを見つけることは難しいでしょう。
「結婚相手を見つけたい人限定」を謳う婚活アプリも人気を博しており、また相性マッチング機能や対面での出会いのサポートサービスなど、「決定回避の法則」や「サンクコスト効果」などのマッチングの弱点への対応が進んでいます。
今後さらに機能が充実していき、「本当に生涯を共に暮らせる相手」を見つけるために必要な夫婦や家族に関する価値観でマッチングできるサービスの普及することが期待されます。
もちろん、利用者側もこうしたサービスのリリースを待つだけではいけません。現状のマッチングアプリは、これまで大きな壁になっていた「出会うこと」のハードルを大きく下げてくれています。
その中から、結婚相手を探すためには、まずは自分自身の「夫婦や家族に関する価値観」を言語化する作業が大切です。
ただ闇雲に有名なマッチングアプリに登録して、手当たり次第にマッチング相手を探すのではなく、「結婚相手」を探すうえで自分にもっとも合ったサービスを見極め、「容姿」「収入」「学歴」などの条件だけにとらわれずに、本当に譲れない「夫婦や家族に関する価値観」の相性を大切にしてみてください。
同じアプリを利用していても、きっとこれまでとは違う景色が見えてくるはずです。