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「恋愛の科学」を科学する:恋愛心理学の上手な活用方法

「恋愛の科学」を科学する:恋愛心理学の上手な活用方法

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1tonariメディア編集部

「恋愛テクニック」はいつの時代でもホットなテーマです。現代では、「恋が実る方法」や「好きな相手を落とす技」を紹介する動画や本がそこら中に溢れかえっており、誰でも気軽にテクニックを学べるようになっています。

代表的なものだけでも、好意の返報性、スリーセット効果、ミラーリング、ゲインロス効果などなど…心理学を中心に様々な専門用語が用いられ、「科学的に証明されている!」「心理学にもとづくアプローチ!と銘打つ「恋愛の攻略法」が語られています。

実際に、実験などで一定程度の効果が裏付けられているテクニックもある一方で、こうした「恋愛の科学」の中には、真偽不明な眉唾な情報が紛れています。

「結婚相手と出会いたい」「恋人がほしい」と悩む多くの人にとって、「恋が実るテクニック」を教えてくれる教材は魅力的に映ります。ですが、真偽不明のテクニックをマスターしても、それが結果に結び付く可能性は高くありません。

そこで、今回は「恋愛の科学」に焦点を当て、世の中に広まっている恋愛テクニックの誤謬を整理しつつ、それらをうまく利用する上手な付き合い方を考えていきます。

恋愛テクニックは噓だらけ?恋愛実験の誤謬

「吊り橋効果」は本物か?不安のドキドキが恋のドキドキに変わる?

数ある恋愛テクニックのなかでも、特に有名なのが「吊り橋効果」でしょう。

簡単に説明すると、「人は吊り橋を渡るときのドキドキを、恋愛のドキドキと勘違いして好意を持つ」というものです。専門的には、先行する刺激が「呼び水(priming)」になって後続する感情や行動が引き起こされるという「プライミング効果」の一種に分類されます。

ここから導かれる恋愛テクニックこそが、有名な「好きな相手と一緒にドキドキする刺激的な体験をすると恋が実る」です。「ジェットコースターに一緒に乗ると付き合える」、「お化け屋敷に一緒に行くと相手を落とせる」というアドバイスを聞いたことがある人は少なくないでしょう。

この有名な恋愛テクニックは、1974年にD.G.ダットンとA.P.アロンという二人の心理学者によって行われた実験がもとになっています。

この実験の被験者は18歳~35歳までの独身男性で、揺れる吊り橋を渡る人とコンクリートの丈夫な橋を渡る人の2パターンを比較します。橋を渡っていると、橋の中央で若い女性が待っていて、心理学のアンケートへの協力を依頼されます。回答してくれた男性には、最後に「もっと実験について聞きたければ電話してください」と電話番号を書いた紙を渡す、という手順です。

すると、揺れる吊り橋を渡った男性たちの方が、コンクリートの橋を渡った人たちに比べて、女性に電話した人の割合が5倍近くも高かった、という結果がでました。

このことから、「揺れる吊り橋の上で感じたドキドキを、脳が恋のドキドキと勘違いした(帰属エラーが発生した)」という説が唱えられるようになりました。

しかし、残念ながら、吊り橋を一緒に歩いても、ジェットコースターに乗っても、お化け屋敷に行っても、ほとんど期待したような効果を得ることはできないようです。

「吊り橋効果」を元論文から見直すと何が言えるのか?

「心理学者が実験を行い、論文で発表した内容です」と言われると、ついつい「吊り橋効果は本当なんだ!」と考えてしまうのは無理もありません。実際に、現在でも様々な媒体が「吊り橋効果」について取り上げています。

ですが、そもそもの話として、元論文である “Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high anxiety(高不安状態下での性的魅力の高まりを示すいくつかの証拠)”は「吊り橋に行けば、好きな相手を落とせる!」と断言するような内容では全くありません

あくまでも、「吊り橋を渡るときのような高不安状態に置かれた男性は、女性の魅力をより強く感じるようだ」という実験結果を公表したものなのです。

しかし、この実験結果が要約されていき、様々なメディアで引用されていくうちに、いつの間にか「人は不安や恐怖のドキドキを、恋愛のドキドキと勘違いする」というかなり飛躍した説が広まってしまったのです。

そのうえ、この実験の結果と分析については様々な角度から疑問の声が上がっています。

中でも重要な指摘の一つは、そもそもこの実験で明らかになったのは、吊り橋のあるカナダの国立公園にいた(おそらくカナダ人の)男性という限られた人の結果だけであるという点です。追加実験も行われていますが、その対象も男性の学部生に限られています。そのため、この実験で本当に吊り橋効果が確認できたとしても、その結果の応用可能範囲がどこまでなのかはわかりません。

他にも、「電話をかけたこと=女性に好意を持ったと言えるのか」や「女性に好意を持った理由は本当に吊り橋の揺れの影響なのか」などにも疑問が呈されました。

そもそも、この実験は「恐怖を感じると、魅力的な女性がより魅力的に映るのか?」ということを調査する目的で行われているのです。そのため、実験をした研究者たちも、この効果が誰にでも当てはまるとは言っていないのです。

つまり、世間で広く信じられている「吊り橋効果」は、確かに学術論文を根拠にしているものの、その実験結果を根拠に「デートテクニック」を導き出すことはおよそできないものなのです。控えめに言っても、かなり誇張されたかたちで広まってしまっていると言えるでしょう。

恋愛心理学の落とし穴~再現性の危機と拡大解釈~

念のため確認しておくと、「吊り橋効果」が誇張されたかたちで広まってしまったのは、論文を書いた研究者に責任があるわけではありません。二人が示した実験結果が、面白い部分だけが切り取られて独り歩きするうちにいつの間にか、当初の論文と乖離した説が定着してしまったのです。

また、二人が行った実験に基づく「本当の意味での吊り橋効果」は、その後に行われた別の研究者による実験でも確認されているようです。

ただし、「恐怖が魅力を引き立てた可能性がある」と言えるのは、声をかける役の女性が、被験者の男性のタイプである場合のみであり、タイプじゃない女性の場合は真逆の結果になった…という何とも言えない落ちがついてしまいました。

こちらの実験に基づけば、恋愛テクニックとして有名な「吊り橋効果」を試した結果、相手からの好意が高まらないどころか、むしろ逆効果になる可能性すらあるのです。

「吊り橋効果」に限らず、広く知られている心理学に基づく恋愛テクニックの中には、真に受けて実践してしまうと裏目に出る可能性があるものが含まれています。

①再現性の危機とは?

「学術誌に掲載された論文に基づく科学的な知見」と聞くと、ついつい誤りのない正確なものだと信じてしまいます。確かに、しっかりとした学術誌に掲載されるためには、専門家による査読審査があり、実験の手順やデータ分析の妥当性などが評価されます。

しかし、査読の段階で実験を再現して本当にその効果が得られるかを逐一チェックできるわけではありません。そのため、論文としての体裁が整っており、一見すると適切に収集したようにみられるデータが示されていれば、そのまま学術論文として掲載されることは珍しいことではないのです。

その結果、一見するともっともらしく見えた実験結果でも、後に別の研究者が追試を行うとすると同じ結果でない…ということも起こってしまうのです。

こうした「別の人がやると同じ実験結果が再現できない」という問題は以前より指摘されてきましたが、特に2010年代には「再現性の危機」と呼ばれ、学術的な議論が過熱しました。

中でも、心理学の分野は特に再現性が低く、例えば、海外の心理学の主要な学術誌3誌に掲載された論文の97の実験を追試した結果、統計的にその効果が確認できたのはわずか36%という衝撃的な結果が出てしまいました

もちろん、研究者は「再現性の危機」を前に手をこまねいているわけではなく、再現性を担保するための様々な取り組みが行われています。とはいえ、この問題を完全に解決する方法は未だに見つかっていないのです。

「追試で再現性が確認できなかった=元論文の実験結果が誤り」というわけではありませんし、こうした実験の重要性を否定する必要はありませんが、「科学」や「論文」という言葉に踊らされずに冷静に判断する姿勢も重要でしょう

②拡大解釈されていく「科学の知見」

眉唾な「恋愛心理学」が広まる背景には、まさに吊り橋効果の話で見てきたような、誇張や拡大解釈があります。学術論文の内容を、専門的な知識のない人にもわかりやすく解説しようとする過程では、科学的に重要なプロセスであっても省略されてしまい、一番面白い部分だけが抜き出されていくことがしばしば起こります。

これは人々の注目を引こうとわざと誇張している場合もあれば、うっかり重要なポイントを説明し忘れた場合もあるでしょう。

理由はどうあれ、ひとたび「人は吊り橋を渡る時のドキドキを、恋のドキドキと勘違いする」という面白い話ができてしまえば、それが広まるのは一瞬です。

わざわざ元論文を探し出してチェックしない限り、誰も誤りに気が付かないまま、拡大解釈された実験結果があたかも真実かのように伝わっていきます。

そしてこの話をもとに、「デートでは○○をしろ!」「△△をすると友達として見られてしまうのでNG」などという恋愛テクニックが生まれてくるのです。

恋愛の心理学と上手に付き合うコツ~盲信でもなく否定でもなく使いこなそう~

さて、ここまで読んでいただいた読者の中には「もう心理学なんて信じらない!」と思われた方もいるかもしれません。確かに、現在の心理学の知見では「絶対に相手を落とせるテクニック」は確立されていません…というか、おそらくそんな万能な「銀の弾丸」はないのでしょう。

「吊り橋効果」の実験に戻ると、恐怖や不安を感じる状況で魅力的な女性に電話番号を渡された被験者のうち、後で電話をした割合は半数に過ぎません。先ほどご紹介した様々な問題点をいったん脇において、「人は恐怖のドキドキと、恋のドキドキを勘違いする」という説を信じるとしても、その発生率は50%ということになります。

残りの50%はどうでしょうか?中には、恐怖の状況でアンケートを求めてくる女性に嫌悪感を抱く人もいるでしょう。「怖いのが苦手」という相手を強引にお化け屋敷に連れて行ったところで、そこで恋が始まる可能性は低く、嫌われるリスクの方が高そうです。

「科学」の限界を理解する

結局のところ、「科学」という言葉を信じて、様々なテクニックを実行したところで、望んだ結果が得られるかはわかりません。もちろん、追試においても再現性が確認されたものだけを選別して、実行することができれば、多少は効果が得られるかもしれませんが、膨大な論文を読み込むだけの労力に見合うだけの成果は上げられないでしょう。

そもそも、このような研究はあくまでも傾向を探るものであり、全員に当てはまる神秘的な法則を解き明かすものではないのです。

大人数を対象とするマーケティング戦略などを立案する上では、こうした傾向をつかむ知見は極めて有用ですが、恋愛という「目の前のある人」との関係を発展させる上においては、あくまでも参考程度に留めておく方が賢明でしょう。

自分の行動を振り返る機会として活用しよう!

一方で、科学的な裏付けがあるかにかかわらず、世の中に浸透している「恋愛テクニック」の数々は上手く使いこなすことができれば、プラスになるものが少なくありません。

例えば、「吊り橋効果」と並んでよく知られている心理学の用語である「スリーセット理論」を考えてみましょう。

スリーセット理論とは、「人は初対面から3回までにその人の印象を決定し、その後はその印象が固定化する」というものです。この理論に基づくと、人は以下のようなステップで、相手の印象を評価しており、一度固定化した印象はなかなか変えられないと言います。

1回目:見た目をもとに第一印象を決定する

2回目:初対面時の第一印象を再評価する

3回目:再評価した印象を確認して、相手の印象を固定する

この理論に基づいて、提唱される恋愛テクニックとしてもっとも有名なのは、

「1回目の印象、しかも見た目が極めて重要なので、いつも身だしなみには注意しておくべき(いつ素敵な相手と出会ってもいいように日ごろから準備しておこう)」というものです。

もう少し解釈を広げて、「3回目のデートまでに恋愛の雰囲気を作れないと「友達」としての印象が固定化されてしまう!」と語られることもあります。

この理論を前にしたときに、私たちはどのように考えればよいでしょうか。

研究者であれば、スリーセット理論の根拠になっている論文を探し出して精査し、その実験の科学的妥当性と恋愛への適用可能性を検討するかもしれません。

しかし、「素敵な相手と出会いたい」「パートナーを見つけたい」と純粋に考えているだけの人が、そんなことをする必要はないでしょう。

大切なのは、このような恋愛論が世の中の多くの人に受け入れられているという事実なのです。

本当に人の印象は3回目までに固定化するのか?固定化とはどのくらい強固なものなのか?印象の固定化は大人数で会う場合でも同じように起こるのか?などなど…言い出したら気になる点は枚挙にいとまがありません。

ですが、ここで重要なのは「科学」を突き詰めることよりも、ここからどのようなメッセージを受け取って、自分のために活用するか?という点です。

誰もが同意する通り、スリーセット理論の信憑性にかかわらず「第一印象」は良いに越したことはないでしょう。なかなか見た目に興味を持てない人が、「もしスリーセット理論が本当だったら?」と思うことで、身だしなみに気を付けられるようになるのであれば、それ自体はプラスに影響するはずです。

また、「印象の固定化」がいつのタイミングで、どの程度生じるかはともかく、確かに広く「3回目のデートまでに全く何もなければ進展しにくい」と言われているのは事実です。これは裏を返すと、デート相手も「3回目までに何も起きなかったから、この人は自分のことを友達としてしか見ていないのかな?」と思ってしまう可能性がある、ということです。

もしも、いつも勇気が出ないうちにチャンスを逃している人であれば、自分が好意を寄せている相手に対しては、3回目を目安に何か一つ行動を起こしてみるのは効果的かもしれません。

このように「スリーセット理論に基づいて○○しなくてはならない」「4回目だからもう何をしても無駄だ」というように実験を妄信するのではなく、一方で「再現性が確認されていないから無意味だ」「恋愛心理学なんて信じない」と全否定するのでもなく、自分が行動を起す一つのきっかけとして利用してみると、何かが変わるかもしれません。

とはいえ、全く信頼のできない恋愛テクニックを参照しても、効果が得られないのもまた事実です。そのあたりのバランスを見極めながら、自分の望む未来に向けてそっと背中を押してくれる「科学」を上手に使いこなしてみてください。


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