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夫婦関係を科学する③結婚とお金の正直な話:離婚と経済状況を考える

夫婦関係を科学する③結婚とお金の正直な話:離婚と経済状況を考える

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1tonariメディア編集部

「愛があればお金なんていらない!」「あの人と一緒にいるだけで幸せ!」

恋愛に夢中になっている時は、こんな気持ちになるものです。映画や漫画の世界だけでなく、現実世界でも「経済的に豊かな生活を捨てて、大好きな人と結婚した」という人は少なくありません。

メディアで活躍する著名人の中には、「長くて貧しい下済み生活の間、パートナーが応援してくれたから頑張れた」と公言している人もたくさんいますし、誰でも一人二人は頭に浮かぶのではないでしょうか。

お金よりも愛を優先した結婚が称賛される一方で、(特に女性の)俳優やアイドルなどが有名実業家と結婚発表したりすると「結局は金かよ…」などと批判を浴びることが多いようです。

このような状況を踏まえると、日本では多くの人が「お金よりも愛情を大切にするべきだ」という結婚観・恋愛観を持っているように映ります。

他方で、「愛さえあればお金なんていらない!」と本気で思っている人も多くはないでしょう。わざわざ言うまでもなく、生活していくためには、ある程度のお金は必要です。

いつもお金がなく、心が追い詰められるような生活が続けば、どれだけ愛している相手と暮らしていてもストレスが溜まります。そうなると徐々に相手への不満も蓄積していき、ついには愛情も湧かなくなってしまうことがあります。

つまり、世の中の多くの人は「愛情とお金のバランス」を求めていると言えるでしょう。お金だけでも、愛だけでも幸せな結婚生活は送れないとすると、その分岐点はどこにあるのでしょうか?

今回は、離婚を招く経済的な要因に関する論文を参考にしながら、このポイントを深堀していきます。

「愛があればお金なんていらない」は、うそ?

「大金持ちだけど愛情のない相手と結婚するか」、「極貧生活だけど愛している人と結婚するか」

この二択のどちらを選ぶか聞かれたら、多くの人は「愛する人と結婚する」と答えるでしょう。日本では恋愛結婚が9割を超えており、また様々な調査でも「恋愛結婚至上主義」と言えるような状況が明らかにされています。

もちろん、実際に結婚を決める際に、究極の二択を迫られることはほとんどありません。長引く経済不況のなかで、実質賃金は下がり続けているとはいえ、二人で真面目に働きさえすれば、食べるものにも困るほどの極貧生活に陥ることはないでしょう。

どちらかが病気やけがで働けなくなってしまうケースなどを除き、二人での生活を成り立たせること自体はそこまで難しい話ではありません。

このような状況を踏まえてみても、愛かお金のどちらの方がより重要か?と問われたら、やはり多くの人は「愛」と答えると考えられます。

しかし、日本全体の傾向に目を向けてみると、明らかに「日本の経済と離婚件数には相関関係がある」のです。

経済が好調だと離婚件数は減少し、実質経済成長率(実質GDP)が下がって経済が停滞すると離婚率も増加トレンドになります。つまり、統計的に見れば、経済と離婚は切っても切れないものと言わざるを得ないことが示されているのです。

経済的理由での離婚の背景

調査によってばらつきがあるものの、離婚理由の約3割が「経済的理由」であると言われています。ただし、別の記事で詳しく解説した通り、離婚理由を正確に調査することは困難です。

そのため、30%という数字はあくまで参考程度のものではありますが、離婚件数をもとに単純計算してみると年間5万5,144組の夫婦が「経済的理由」で離婚していることになります(2023年の離婚件数18万3,814件で計算)。

「経済的理由」の中身を詳しく見てみると、お金にかかわる様々なトラブルが含まれています。

女性側の離婚理由として多いのが、いわゆる経済DVと呼ばれる「生活費を渡さない」です。この中には、明らかに夫に責任がある「一円も家にお金を入れない」という極端な場合もあれば、「夫としては十分な生活費を渡しているつもりだが、妻から見ると不十分だった」という場合まで、様々なパターンがあると考えられます。

逆に男性側の回答をみると、経済的理由に関する項目では「浪費」がトップになっています。この項目の中にも、誰が見ても妻が悪いと思うであろう「生活費をすべてギャンブルに使ってしまう」、「無断で二人の貯金を下ろしてブランド物を買い漁っていた」などという場合から、「妻としては必要な範囲の支出だったが、夫から見ると無駄に贅沢しているように見えた」という場合まで様々なケースが含まれているでしょう。

価値観のズレが「経済的理由」になる?

先ほど見てきた通り、「経済的理由」と言ってもその内実は様々です。

当然のことながら、「一円も生活費を渡さない」というような経済DVや、「生活費をすべてギャンブルに使ってしまう」というようなレベルの浪費癖に耐える必要はなく、話し合っても改善しないようであれば、多くの人が離婚を選択するでしょう。

ここで注目したいのは、このような明らかにどちらかに非がある「経済的理由」ではなく、「価値観のズレ」によって生まれてしまっている離婚についてです。前述の例の中で言えば、以下の二つのようなケースです。

  • 「夫としては十分な生活費を渡しているつもりだが、妻から見ると不十分だった」
  • 「妻としては問題ない範囲の支出だったが、夫から見ると無駄に贅沢しているように見えた」

この二つは実は裏表の関係になっています。このすれ違いの原因を「食費」と「教育費」を例に考えてみましょう。

①夫婦で食費の目安は?平均8万2千円をどう捉えるか?

2024年2月に総務省が公表した「家計調査」によると、二人暮らしの食費の平均は一か月あたり8万2,996円でした。このうち1万7,643円を外食費が占めています(約14.3%)。

一般的には、食費は手取りの15%以内に収めるのが理想的と言われており、20%を超えると使い過ぎだと言われます。

一カ月あたりの平均金額をもとに逆算してみると、15%以下に抑えるためには、夫婦の手取りが合計で554,307円以上、20%以下に抑える場合は414,980円以上必要ということになります。このことから、単純計算で、一人あたりの手取りが21万円以上あれば、「平均的な食生活を送れるだけの経済的余裕がある」と言えるでしょう。

しかし、これらの数字はあくまでも目安でしかありません

収入が同じくらいの夫婦であっても、食費にいくら使うかは大きく異なっています。

外食が大好きな夫婦にとっては、月2万円以下の外食費では到底足りず、10万円以上を食費に使っている場合もあるでしょう。逆に、節約術を駆使して平均の半分以下の3万円台に抑えている夫婦もいます。

外食も楽しんで食費に10万円以上使う夫婦から見れば、食費を切り付けて月3万円の食費に抑える夫婦は「無理している」「楽しめていない」ように映るでしょう。一方で、逆から見れば「無駄遣いしている」「浪費家」のように見えるものです。

他の夫婦であれば問題ありませんが、このような価値観のずれが夫婦間で生じてしまうと大きな問題になる可能性があります。

例えば、家族の健康を考えてオーガニック食品を使った手料理にこだわりたい妻と、安いお惣菜や冷凍食品でも構わない夫との間では、食事の材料費や料理にかける時間のコストに対する考え方が大きく異なります。

一般的にオーガニックの食品は、生産に手間がかかる分、値段も1.2〜1.5倍程度高くなるため、夫からすると「十分な食費を渡しているはず」なのに、妻からすると「買い物や料理をするたびにストレス」になってしまうというすれ違いが起こるのです。

このすれ違いがすぐに離婚にまで発展するかはともかく、「なぜ平均以上の金額を渡しているのに文句を言われるんだ」という不満や、「せっかく健康を考えて選んでいるのに感謝されないどころか『買い物が下手だ』と文句を言われる」という不満が蓄積していけば、どこかで爆発してしまうこともあるでしょう。

②子どもにかけるお金は?:どこまでが「親の責任」なのか

食費以上に大きなトラブルに発展しやすいのが、子どもの教育費です。

一般に、子ども一人にかかる教育費の目安は1,000万円と言われます。これは幼稚園~大学卒業までの学費や平均的な塾の費用などを合わせた試算に基づいています。ただし、あくまでもすべて国公立に進学した場合の話です。もしすべて私立に行く場合は、2,000万円以上かかると言われています。

近年、大学・短大・専門学校を合わせた進学率は80%を超えて、さらに右肩上がりに上昇しています。学費が高額な大学進学率も50%を超えており、それに伴い教育費も上昇傾向が続いています。

しかし、当然ながら、実際にいくら教育費がかかるか(かけるか)は家庭ごとに大きく異なります。幼稚園の頃から私立に進学させ、学校以外にも習い事をいくつも掛け持ちさせる家もあれば、「子どもは外で友達と遊ぶ方が良い」という教育方針のもと、習い事はほとんどさせずに地元の公立校に通わせる家もあります。

統計的にはある程度の相関関係が見られるものの、必ずしも「収入の高い家庭=子どもの教育費をたくさんかける家庭」というわけでもありません。

ほとんど外食をせずに、節約レシピを駆使して食費を切り詰めて、浮いたお金で子どもに習い事をさせるという家庭だってあるでしょう。

「子どもがやりたいことは何でもやらせてあげるのが親の責任だ」という意見もあれば、「人生を楽しんでいる姿を見せるのも親の仕事。無理なくできる範囲でできることをやればよい」という意見もあります。

これは、どちらが正解ということではありません。あくまでも子どもの教育に関する考え方の違いです。

しかし、夫婦間でこの方針に隔たりがあると大きなトラブルに発展してしまいます。例えば、「多少無理してでも有名私立に入学させて、質の高い教育を受けさせることが子どもの将来のためになる」と考えている夫と、「近所の友達とたくさん遊んで、『地元』と呼べる場所を作る方が大切だ」と考えている妻の間で意見を一致させることは困難でしょう。

ましてや、「経済的に厳しいから私立には行かせられない」、「予備校代は出せないので浪人はせずに現役で入れるところに進学してほしい」などというように、子どもに対して何かをしてあげられない背景に経済的な理由が場合は、より深刻な自体に発展する場合があります。

「私立と公立のどちらに進学する方が子どもの幸せになるか?」というテーマであれば、建設的な話し合いもできるかもしれませんが、「子どもの幸せになるのは○○だとしても、経済的にしてあげられない」という状況では、全員が幸せになる結論が出ない以上、諍いに発展しやすいのです。

子どもに対して果たすべき「親の責任」とは何なのか?大学の学費も全部親が出すべきか?一人暮らしの仕送りはいくら?習い事はさせるべきか?…

この正解のない問いに対する答えは、一人ひとり異なっており、夫婦間で考え方が異なることもありますが、そうした違いが時として「なぜ子どものことを考えて○○しないのか?」という不満や、「子どもを甘やかしすぎている」という不満につながってしまうのです。

なぜお金の使い方の価値観の違いが、離婚の要因になってしまうのか?

「食費にいくら使うか?」、「子どもの教育費をどう考えるか?」

こうした問題は、一見すると話し合いの中で妥協点を見つけられるテーマのように思えます。実際、どれだけ仲の良い夫婦であっても、100%価値観が一致することはありません。長く続いている夫婦は、大なり小なりお互いに妥協し合いながら暮らしています。

しかし、毎日の食事や子育てなどに関しては、なかなか建設的な議論を重ねて妥協点を探る、ということが難しい場合があります。

その理由は、こうした生活の根本に根ざしている価値観は、多くの場合、生まれ育った環境などの影響を受けて無意識のうちに作られていくものだからです。家庭の経済状況と離婚の関係を分析した研究によると、「自分が生まれ育った生活レベルを維持できるかどうか」が、一つの分岐点になると言われています。

例えば、何でも好きに習い事をさせてもらって育った人からすると、「子どもがやりたいと言っていることを、お金を理由に諦めさせる」ということ自体が尋常ではないストレスになる場合があります。

一方で、自分自身が「親に迷惑をかけないように、必死に勉強した結果、奨学金を獲得できた」とか、「高校生のころからアルバイトをしていたことで、学校以外の広い世界を知れてよかった」という成功体験がある人からすれば、むしろ「なんでもかんでも子どもの言ったことをやらせてあげることが、本人のためになるわけではない」と考える傾向があります。

食生活に関しても同様で、経済的な理由で、生まれ育った環境よりも明らかに質を落とさなければならない場合には、大きな負担になります。年に何度か、お祝い事の際に家族で行っていた高級レストランでの外食を我慢する、という程度であればそこまで問題にはならないでしょうが、毎日の食生活の質を落とさなければならない経済状況に置かれると徐々にその生活への不満が蓄積してしまいます。ですが、パートナーからすれば、「なぜ毎日、手料理を作っているのになぜ文句を言われるのかわからない…」という状況になっていることもあるのです。

こうした価値観のずれが問題になるのは、本人も自分の持っている価値観や、その感覚が醸成された背景に無自覚な場合が多く、「これが当たり前だ」と信じているためです。

そのため、一方から見ると「子どもの教育のためのお金を出し渋るなんて。親としておかしい!」、もう一方から見ると「子どもを甘やかしてばかりでは親失格だ」というように、相手を非難し合う、悲惨な関係にまで発展してしまいやすいのです。

「当たり前」はないと知ること。自分の価値観を知ること。

こうしたトラブルを回避するためには、まず自分の中の「当たり前」に疑問を持つことが大切です。自分の価値観とは、親との関係性をはじめ、生まれ育った環境の中で育まれて来たものです。そう考えれば、環境が変われば「当たり前」も異なることがわかります。

相手とすれ違いが生じたときに「なぜこんな当たり前のことわからないんだ」と怒るのではなく、相手にとっての「当たり前」を知ろうとする姿勢を持つことは、円満な関係性を続けていくために不可欠です。

また、根本的な話として、生活に密接にかかわる根本的な部分の価値観が合わない相手と無理に一緒にいる必要はないという点も大切です。

どれだけ他の部分が好きだとしても、自分の生活の根本にかかわる部分ですれ違いが生じてしまう相手と関係を構築することは極めて困難です。

そういう意味では、この生活に根差した譲れない価値観の一致は、長期的な目線で見た時に極めて重要な要素です。根拠もないまま漠然と「結婚するなら年収○○万円以上じゃないと嫌だ!」と言ってしまうのも、盲目的に「お金なんてなくても愛があればいい!」と考えてしまうのも、どちらも幸せにはなかなか結びつきません。

まずは自分の生まれ育った環境に目を向けて、自分の中の「当たり前」を知ることこそが、自分にとって必要な「愛情とお金のバランス」を知ることにつながるでしょう。


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