結婚生活が破綻し離婚に至る理由は、性格の不一致や経済的な問題など多岐にわたります。本記事では、統計や研究をもとに離婚の要因を探り、幸せな結婚生活を続けるためのヒントを考えます。
プロポーズ。結婚式。新婚旅行。
これからの生涯を共に過ごすことを決めた二人が、新しい家族として一歩を踏み出す門出は幸せで溢れています。
しかし、現代の日本では実に3組に1組が離婚してしまう状況があります。
「離婚をしていない=幸せな結婚生活が続いている」という単純な話ではないものの、やはり離婚は夫婦関係の破綻を象徴するものです。
結婚当初は幸せに満たされていたはずのカップルが、なぜ離婚という結末を迎えてしまうのでしょうか。
幸せな結婚生活を夢見て婚活をしている人からすると、離婚は自分とは関係ない話のように思われるかもしれません。しかし、離婚について考えることは「なぜ幸せな関係が続かなかったのか」、言い換えれば「どうすれば、どんな相手となら幸せな関係が続くのか」を考えることでもあります。
そのため、今回は離婚に関する統計データや社会学の研究を参照にしつつ、幸せな夫婦関係を続けることができずに「離婚」に至ってしまう要因を見ていきましょう。
目次
統計からみる離婚のあれこれ:割合、年数、理由
まず離婚について考えていくために、いくつかの統計情報を整理していきましょう。
当然ながら、離婚の理由はそれぞれの夫婦によって異なります。ですが、統計から掴める傾向を理解することは日本社会の家族構造や夫婦関係に対する変化を読み解き、離婚そのものについての解像度を高める手がかりとなります。
日本の離婚率は1980年代後半から急激に増加しましたが、近年は若干の減少傾向にあります。とはいえ、2019年のデータによると、離婚率は年間約21万件に達しており、結婚に対する離婚の割合はおおよそ30%にのぼります。つまり、3組に1組は離婚しているということです。
また、離婚に至るまでの平均年数はおよそ12年程度であり、特に10年目前後に離婚が多いことがわかっています。このデータは、結婚生活の初期段階を乗り越えた後に夫婦関係において摩擦が生じ、最終的に離婚に至るケースが多いことを示唆しています。
離婚した夫婦を対象に行われた調査では、男女ともに「性格が合わない(性格の不一致)」という回答がトップです。2位以降の順位には男女で差がありますが、いわゆるモラハラに相当する「精神的に虐待する」や不倫などの「異性関係」が上位を占めています。また女性側が離婚を決めた理由では「生活費を渡さない」という経済的な理由や、DV被害を意味する「暴力を振るう」が上位になっています
表1)日本の離婚理由の男女別ランキング
男性 | 女性 | |
1位 | 性格が合わない | 性格が合わない |
2位 | 精神的に虐待する | 生活費を渡さない |
3位 | 異性関係 | 精神的に虐待する |
4位 | 家族・親族と折り合いが悪い | 暴力を振るう |
5位 | 浪費する | 異性関係 |
6位 | 性的不調和 | 浪費する |
7位 | 同居に応じない | 性的不調和 |
8位 | 暴力を振るう | 家庭を捨てて省みない |
9位 | 生活費を渡さない | 酒を飲み過ぎる |
10位 | 家庭を捨てて省みない | 家族・親族と折り合いが悪い |
ここで気になるのは、男女ともに「性格が合わない」がトップであるという点です。
日本の夫婦は約90%が恋愛結婚です。恋愛結婚ならば、相手の性格も含めて好きになったからこそ二人は結婚したはずではないでしょうか。それなのに「性格が合わない」ことを理由に多くの夫婦が離婚しているというのはいささか不思議な現象に思えます。
恋愛結婚が9割なのに、離婚理由トップが「性格が合わない」という謎
なぜ性格も知ったうえで交際し、結婚を決めたはずの恋愛結婚が9割を占める日本において、離婚理由のトップが「性格が合わない」なのでしょうか。
その答えの背景には、まず何よりも結婚や離婚という極めて複雑な人間関係を科学すること自体の難しさがあります。
第一に、インタビューやアンケート調査などで離婚理由を尋ねたとしても、必ずしも全員が正直に回答してくれるとは限りません。夫婦の生活の中では、性的な関係をはじめ他人には言いにくいことも少なくありません。不倫やDV、モラハラなどが直接的な原因であったとしても、対外的には「性格が合わない」のように穏便な説明をする人も一定数いると考えられます。そのため、他者離婚の実態を正確に把握することは困難なのです。
第二に、当然といえば当然の話ですが、離婚に至るまでの過程は非常に複雑なことが挙げられます。そのため、当事者ですら「離婚の原因は○○」と理由をはっきり特定することができない場合も少なくありません。例えば、「不倫(異性関係)」は夫婦関係を破綻させ、離婚の直接的な原因になる重大な裏切りですが、「不倫さえなければずっと二人で幸せに暮らせたのに…」というカップルばかりではないでしょう。そもそも不貞行為に至った背景には、夫婦のすれ違いや不仲、性生活の不一致(性的不調和)などが隠れていることもあるのです。
さらにその背景を深堀りすれば、例えば「転職をきっかけに生活のリズムが合わなくなり、徐々にすれ違いが増えた」、「子どもが生まれてから、時間や家の間取り的に二人だけの親密な時間を作ることが難しくなった」など別の要因も絡んでくるかもしれません。
こうしたそれぞれの夫婦が抱える複雑な事情を説明することは困難なので、すべてを大雑把にひとまとめにして「性格が合わない」と回答する人も少なくないのです。
このように「性格が合わない」という離婚理由の中には、①本当は言いにくい別の理由がある場合、②複雑な離婚理由を大雑把に説明している場合が含まれているといえます。
「性格が合わない」のではなく「性格が合わなくなった」?
「性格が合わない」という離婚理由の内実は複雑です、とはいえ、生活スタイルや価値観の違いが蓄積した結果、徐々に愛情が薄れてしまい、最終的には「本当に相手の性格まで嫌いになってしまった」というケースが多いことも事実です。
すれ違いの原因としては、家庭内での役割分担、家計管理、子育て方針などに関する意見の相違が原因となることが多いです。
つまり、「もともと性格が合わなかった」というよりは、もちろん性格も含めて好きになって結婚したものの、ほかの何らかの理由によって夫婦関係が徐々におかしくなっていき、最後には性格まで嫌になってしまったということを意味しています。
「相手と性格が合わない」という説明が、正確には「結婚生活の中で性格が合わなくなった」という意味であるとすると、そこに至るまでには原因とプロセスがあるはずです。
続いては、この「性格の不一致=相手の性格が嫌いになってしまうこと」が起きる理由を探っていきましょう。
なぜ愛情が薄れ、性格が合わなくなってしまうのか?
これまで見てきた通り、「性格が合わない」という離婚理由の中には、様々な要素が混在しています。そのため、離婚理由と同様に愛情が薄れた理由を一つに絞ることはできません。
家事の分担や睡眠時間、休日の過ごし方やお金の使い方、外食の頻度や性生活に至るまで、それぞれが理想とする夫婦の形が一致しないことは日常的に発生します。1回だけなら我慢できるようなことでも、それが長期にわたることで大きなストレスになることは少なくありません。
また、出産や転職など生活環境が大きく変化したことをきっかけに、これまで表面化していなかった性格の不一致が明らかになることもあるでしょう。
そもそも人の性格や考え方は変化しうるものなので、何らかの理由で「結婚前とは別人のようになってしまった」という場合もあります。
このようなことを考えると、徐々に愛情が薄れてしまい「価値観が合わなくなった」ということはどの時代の夫婦でも起こりうることであると言えます。
後で詳しく紹介する通り、現代は離婚が社会的に広く受け入れられている時代です。そのため、「性格が合わない」と思う相手と無理して結婚生活を続ける必要はもちろんありません。
とはいえ、なるべくなら離婚は避けたい。さらに言えば、波はあっても愛情を維持しながら、一緒に添い遂げられる相手を探したいと思うのは当然の心理でしょう。そのためには、まず自分が結婚生活で譲れない価値観を知ることが重要です。こうした点を明確に言語化しておくことで、結婚生活が破綻するような性格の不一致に直面するリスクを最小化することができるでしょう。
時代とともに変化する離婚率の背景
DVやモラハラ、不倫など結婚を決めた時には想定できなかった出来事に直面したり、日々の生活の不満から愛情が薄れてしまったりする可能性をゼロにすることはできません。幸せいっぱいで結婚生活をスタートさせたとしても、中にはやがて夫婦としての関係を解消するカップルが生まれてしまうのはある程度仕方がないことではあります。
ここで疑問なのは、「離婚はどの時代の夫婦でも起こりうる出来事」であるとすると、なぜ時代によって離婚率が大きく変化するのか?ということです。
離婚率の低い時代は、結婚生活の中で価値観が合わなくなってしまう夫婦の割合が低く、離婚率が高まる時代はすれ違ってし合った夫婦の数が日本社会全体で増えた、という説明は合理的とは言えないでしょう。
近年は若干の減少傾向にあるものの、日本の離婚率は1980年代後半から急激に増加しました。1988 年のバブル絶頂期には1.26であった「普通離婚率」は、 2002 年には2.30となっています。つまり、わずか15 年たらずの間に1.8倍も増加したのです。この背景にはどのような要因があるのでしょうか。それは夫婦関係そのものの変化ではなく、社会の変化です。
もう少し歴史をさかのぼってみると、実は日本の離婚率は、明治期の方がさらに高い状況がありました。1893 年の離婚件数は127,163 件であり、普通離婚率は3.38にのぼったという記録があります。この当時の日本は「離婚大国」だったのです。
その背景には、現在と全く異なる法制度や家族観があります。詳細は割愛しますが、簡潔に言えば、①「結婚=生涯続けなければならないもの」という意識がなかったこと、②親との同居が当たり前の時代であり、相手の家族と折り合いが悪いとすぐに離婚を迫られたこと、③本人たちの意志がなくても離婚が行われたこと、④届け出が不要であったこと(別居=離婚と見なされる)が挙げられます。
その後、明治民法が施行されると状況は一変します。民法が施行された1898年の離婚数は前年と比べて約20%減少し、翌年はさらに33%も少なくなりました。民法施行前と比較して、半分近くまで落ち込みました。それ以降も、昭和前期まで離婚率は減り続けて、1938年には0.63という史上最低値を記録しています。
その理由としては、戦前から戦中にかけてのあまりにも貧しい時代であったため、男女ともに一人で生きることができず、生活手段として結婚を維持する必要があったことが挙げられます。また、特に女性は、離婚したとしても自立して食べていけない労働事情や、離婚をすると子どもを手放さなくてはならない民法の規定などの影響で、離婚したくてもできないという状況があったのです。
戦後は民法の改正など大きな制度の変更や、その後徐々に広がってきた女性の社会進出などによって、このような「離婚できない」という状況に変化が生じました。特に女性の就業機会が増え、さらに社会保障が充実してきたことにより、離婚が現実的な選択肢になったのです。また、「無理してまで結婚生活を続ける必要はない」という認識が一般化し、離婚に対するネガティブなイメージが払しょくされてきたことも影響していると考えられています。
協議離婚の理由からみえてくること:自分が育ってきた生活水準を維持できるかが分水嶺?
この記事の目的は、離婚の増加に一石を投じることでもなく、特定の結婚観を奨励することではありません。冒頭で確認した通り、中には離婚という結論に至ってしまう夫婦がいることは前提としつつも、離婚の分析を通じて「幸せな関係が続かない理由」を考えることです。
少し古い調査ではありますが、2010年に行われた興味深い調査があります。「離婚した夫婦」「離婚を検討中の夫婦」「関係を修復した夫婦」を対象に離婚を考えた理由を尋ねた調査です。前に述べた通り、「性格の不一致」にはあまりにも様々な要素が入ってしまうためそれを除いて分析をしたところ、離婚した女性(元妻)の回答の48.5%が「金銭問題」だったのです。
つまり、経済的な問題は、夫婦の愛情に影響を与え、結婚の意味や夫婦関係について考え直すきっかけを作っているのです。
この中には表1にもあった「生活費を渡さない」や「浪費する」という信頼関係を根本から壊すような問題もある程度は含まれているとは考えられますが、こうした事例はやはり少数派でしょう。
給与をろくに家に入れない無責任な夫や収入に見合わない贅沢品を買い漁る妻も中に入るでしょうが、そこまで極端なケースはやはりごく一部です。
社会学の研究によれば、この「経済的な問題」とは、つまり「結婚に期待していた『人並み』の生活が送れなかった/維持できなかった」ということであると指摘されています。この点については別の記事でさらに深堀りしていきますが、簡単に言えば、自分が育ってきたような環境と同等の生活を維持できるか?というのが大きなポイントになっていると言われています。
「一度生活レベルを上げると元のレベルに戻すのは難しい」という教訓はよく知られていますが、これが真実であるとすると「生まれ育った生活レベルを下げること」はそれよりもさらに難しいことであると言えるでしょう。
しかし、残念ながら、日本経済が停滞しているなかではこれまでの生活を維持していくことすら容易なことではありません。「経済的な問題」が夫婦の関係に大きな影響を与えるとわかっていても、すぐに収入自体を増やしていけるわけではないのです。
「経済的な問題」の重要性を知ることが大切な第一歩
「DVや不倫、モラハラなどの決定的な出来事がなくとも、日々の生活の愛情が薄れてしまう夫婦がいるのは仕方がないことである」
「『経済的な問題』は夫婦関係に大きな影響を与え、最終的には離婚につながってしまうこともある」
これだけを聞くと、なんとも夢のない話です。
真面目に働いてもなかなか収入があがらない今の日本社会の状況を踏まえれば、「経済的な問題は離婚の要因だ!と突き付けられても、どうしようもない…」という声が聞こえてきても無理はありません。
しかし、この現実を知ることこそが何よりも重要なのです。なぜなら「恋愛結婚」がすっかり当たり前になった現代において、こうした経済の問題というのはタブー視されがちであるからです。
まず、自分の中に存在する「人並みの生活」を明確化する作業から始めましょう。そのうえで、より現実的な問題として「経済的な問題」を考えていくことが大切なのです。
これは決して「年収が高い人と結婚した方がよい」、「年収○○円以上の人じゃないと幸せな生活を送れない」などという極端な話ではありません。
そうではなく、例えば「理想とする水準に足りない部分をどのように補えるのか」などより建設的に未来を考えるためにまずは自分の中の基準を知るということです。
じわじわと夫婦関係を蝕む「経済的な問題」をタブー視せず、パートナーと一緒に向き合っていくことで「日々の生活の不満がたまっていき、徐々に愛情が薄れて、離婚した」という日本で最も多いパターンに陥るリスクを軽減することができるでしょう。
お金の話はなかなか切り出しにくいテーマですが、幸せな関係を維持するためには避けては通れません。研究や統計で得られる知見を参考にしながら、離婚につながる落とし穴を把握し、未然に対策を取ることをお勧めします。