30代から40代という年齢は、多くの人にとってライフスタイルの変化が訪れる時期です。この時期に起こる変化は、単に仕事や家庭の環境が変わるだけでなく、自分の人生観や価値観にまで及ぶこともあり、家庭とキャリアを両立しようとするビジネスパーソンにとって重要な時期になります。ここでは自分らしく働くために必要な「パートナーシップ」のあり方について解説します。
目次
1)30代・40代に訪れるライフスタイルの変化
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると「理想的な相手が見つかれば1年以内に結婚してもよい」と考える割合は、25歳から34歳層で5割を超えています。また、実際結婚に至ったパートナーと出会ったときの年齢を見てみると男性 で26.4歳、女性で24.9歳というう結果となりました。平均交際期間が4.3年ということを考えると、実際にも男性で30歳、女性で29歳ごろに結婚のピークが来ていることが伺えます。
結婚すると、独身の時に比べて就労にあたって様々な変化が訪れます。独身の時には自分一人の考え方や都合で出来ていたことに対し、パートナーの意向を確認したり、あるいは調整するなどの必要性も生じます。逆に一人で今までしていたことが分担できるようになり、より就労の条件が広がる人もいるでしょう。
30代・40代は子育て期にも重なります。政府調査では第1子の平均出産年齢は30.7歳であり、多くの人にとって30代から40代にかけての期間は子どもの成長によってライフスタイルが変化する経験を伴います。
特に女性にとっては、出産とそれに伴う産前産後休業、育児休業などでキャリアが一度空白期間を伴うこともあり、自身の働き方を見直す大きな契機ともなっています。
【事例】教育は妻任せ?「尊重」が生んだすれ違い
30歳で結婚しキャリアを順調に築いていたトモカさん(仮名)は、仕事に誇りを持っており、職場での昇進も目指していました。事実、出産後も1年以内に復帰し、パワフルな仕事ぶりで他を圧倒するほどでした。そんなトモカさんのことを頼もしく感じていたのはパートナーであるユウヤさん(仮名)です。二人はそれぞれのキャリアを尊重し、お互いに高め合える関係であることに満足していました。
しかし、30代後半に差し掛かり、子どもが幼稚園に上がる頃から、二人のそのような価値観に変化が生じます。仕事と子育ての両立に加え、子どもの成長に伴う「教育」の問題が大きくのしかかってきたのです。
ある日、トモカさんは友人から「今の時代は幼児教育が大事」「小学校受験も視野に入れるべき」といった話を聞きます。子どもにとっての教育環境をしっかり整えたいという思いが芽生えたトモカさんは、小学校受験に挑戦させることを決意しました。塾の送迎や宿題の見守りなど、日々の家事や仕事に加えて増え続けるタスクに彼女は徐々に圧倒されていきます。しかし、自身のキャリアもさることながら、夫のキャリアを壊したくないと感じたトモカさんはユウヤさんに弱音を吐いてはいけないと思い、一人で抱え込んでしまいました。
一方、ユウヤさんは「教育は妻が主導する領域だ」と思い、トモカさんの考えを「尊重」する形で、あえて深く関わらないようにしていました。仕事を終えて帰宅しても、ユウヤさんは家庭内での教育にはほとんど触れることはありませんでした。受験のために塾に行っていることは知っていながらも、その送迎などについて積極的に「自分が介入することでトモカさんの意志を損なうのではないか」と感じ、言葉を飲み込んでしまっていました。
トモカさんは次第に負担が大きくなり、仕事でも育児でも余裕が持てない状態が続きます。夜遅くまで子どもと勉強をした後、ようやくデスクに戻り仕事のメールを確認する生活が続き、トモカさんは次第に抑うつ傾向を示すようになりました。また、子ども自身もトモカさんの期待に応えるように机には向かっていたものの、成績は伸び悩んで勉強への意欲も失っているように見えました。
ある日、ユウヤさんはトモカさんに、「無理しないでやればいいんじゃないか」と意を決して伝えました。しかしトモカさんは、「自分と子どもが一生懸命やっていたときに何もしてくれなかったのに、今さら口を出さないで」と拒絶されてしまいます。ユウヤさんの配慮はトモカさんに届いておらず、トモカさんはユウヤさんが教育に関心がないのではないかと考えていたのでした。
2)子育て期の夫婦間のパートナーシップはバランス重視
協力してくれないと思う妻、文句を言われて消極的になる夫
事例の二人は、ともにお互いのキャリアと家庭観を尊重しようとするあまり、お互いに助け合えない状況に陥ってしまいました。
しかしこれは稀な例と言うわけではありません。民間会社の調査では、「配偶者の家事・育児不満度」で夫の家事・育児に不満がある妻は、52.9%に達する反面、夫の 9 割以上は自身が 家事・育児に参加するつもりがあるという結果になりました。この結果からは、夫は火事・育児に参加する気はあるのに、妻は不満である、という状況が伺えます。これは同調査の「家事・育児において困っていること」からも裏付けられました。この調査では夫婦とも1位回答は「子供に対しての時間が取れない」でしたが、夫側の2位回答は「家事・育児に協力しているつもりが、配偶者から文句を言われる」 38.1%。同じ項目に対する妻側の回答が8.5%であることを考えると、意識のずれがあることがわかります。つまり、夫は協力するつもりがあるが、妻はその意思をうまく受け取ることができていないのです。
子育て期とキャリア時期が重なることの課題
30代から50代の子育て期は、同時に職業人としてキャリア構築をする大切な時期になります。組織心理学の父と呼ばれるエドガー・シャインは、職業人としてそれぞれのキャリアの段階で遂げるべき課題があると考えました。35歳から45歳にかけての時期は「キャリア中期の危機」と呼ばれ、自分のキャリアの再評価を行い、現状維持か、キャリアを変えるかを決めることが課題になります。1日は24時間しかありません。だからこそ、多くの人は、「キャリアをとるか、家庭をとるか」の選択を時間で割り振るということを迫られます。
この割り振りが自分の意に反してどちらかに大きく偏ってしまうと、バランスを崩す原因になります。したがって「どちらかを選ぶのではなく、バランスを取る」という考え方が鍵になりますが、この「バランスを取る」というのは一言で言うほど簡単なことではありません。多くの人は、日常の忙しさや周囲の期待に押し流されてしまい、気づかないうちに自分の本当に大切な価値観を後回しにしてしまうのです。
3)「譲れない価値観」を核にしたパートナーシップ
自分の譲れない価値観を知ることの重要性
このキャリアと家庭のバランスを取るためには、まず自分自身にとっての「譲れない価値観」を知ることが重要です。この価値観は、仕事に関するものだけでなく、パートナーとの関係や生活費の稼得の仕方、家事、育児に関するものも含まれます。「家族も仕事もどちらも大事」だとしても、その中で特にここは大事だというポイントを見つけ出してパートナーと共有することで、対話の道が開けます。
大事なのは、ただ家族のために時間を使うことや、キャリアを犠牲にすることではありません。むしろ、家族やキャリアの中で「何が譲れないのか」「どのような時間が自分にとって意味を持つのか」を見つけることが重要です。
たとえば、「子どもに関することは誰よりも自分が把握しておきたい」という価値観を持っている場合、パートナーの育児参加を阻害する可能性があります。また、「仕事も大切ではあるが、家族とより長く一緒にいる時間を持ちたい」という価値観がある場合、現職に不満がなくても転職する可能性が生まれます。こうした価値観は言語化して共有されないとパートナーに伝わりません。
「パートナーは言わなくても自分のことを理解してくれる」という幻想
民間会社の調査によると、6割以上もの人が「 配偶者は、自分の思いを言わなくても理解してくれている」と考えており、特にその傾向は男性で高くなっています。
しかし、この「言わなくても理解してくれる」という考えは幻想にすぎません。ある調査では、夫婦関係がうまくいかないと感じたきっかけの一位は男女ともに「自分を理解する姿勢がないと感じるとき」でした。なお、女性の理由の第2位は「話をちゃんと聞いてくれないとき」、男性側の理由の第2位は「相手の気持ちが分からないと感じるとき」となっています。男女ともに自分を理解してほしいとパートナーに願いながらも、それが実際には出来ていないことが伺われます。
パートナーとこそ対話を軸にした関係が必要
ライフスタイルの変化において、パートナーとの協力や理解は欠かせません。自分の譲れない価値観を大切にしつつ、それをパートナーにも理解してもらうことが、互いの信頼関係を深めるポイントです。そのためには、自分がパートナーに求めるだけでなく、自分もパートナーが大切にしている価値観を尊重する姿勢が必要です。
夫婦関係においては、「どちらかが我慢をする」という形でのバランスは長続きしません。お互いの価値観を尊重し合い、譲り合いながら折り合いをつけることが、長く良好なパートナーシップを保つ鍵です。たとえば、家庭の役割分担や育児・家事に関する協力体制を話し合う中で、お互いが負担にならない形を見つけることが重要です。
家事・育児の分担は平等よりも公平を重視してバランスさせる
家事や育児の分担において、「平等」を追求すると、それぞれのパートナーが同じ量や時間を家事や育児に費やすことが理想とされがちです。しかし、現実にはそれぞれの家庭や働き方、個々の体力や得意分野が異なり、一律に分担することがかえって不満やストレスを生むことがあります。そこで、分担を「公平」に行うことが重要です。
公平な分担とは、単に家事・育児を時間や量で割り振るだけでなく、各パートナーが自分の役割を納得し、それぞれの生活スタイルに合ったバランスをとることです。たとえば、仕事の内容や労働時間が異なる場合、平等に時間を分担するよりも、負担感を調整して効率的に役割を分担するほうが、お互いに無理がなく長続きします。さらに、各自の得意分野に合わせて分担することで、家庭内の仕事も円滑に進みます。
また、公平な分担では、柔軟な考え方と対話が欠かせません。たとえば、仕事が繁忙期に入っている時は家事を一時的に相手に任せるなど、状況に応じて柔軟に協力し合う姿勢が必要です。公平に家事・育児の負担を分け合うことにより、どちらか一方が負担を感じることが少なくなり、夫婦間の信頼とサポート意識が深まるでしょう。
パートナーが譲れない価値観を尊重してくれない場合
もし、パートナーが自分の「譲れない価値観」を尊重しない場合、それはただ我慢して済ませるのではなく、自分の意見や価値観を強く伝える必要があります。この場合、自分の「発言力」を高めることが重要です。発言力を高める方法としては、まず自分自身の考えを明確に整理し、パートナーに伝えやすい形で話すことです。
また、日頃から自己研鑽を積み、キャリアや家庭の中での自分の立ち位置を確立しておくことも、発言力を高めるための一助になります。自分の価値観に対する自信を持つことで、パートナーとの対話がスムーズになり、お互いの理解が深まる可能性が高まります。
4)簡単ではないからこそ、「譲れない」線を引くことが大切
30代・40代のビジネスパーソンにとって、家庭とキャリアを両立させることは簡単なことではありません。しかし、ライフスタイルの変化に適応しながら、自分にとって譲れない価値観を見つけ、それをパートナーと共有することで、過度なストレスを減らし、自分らしいバランスの取れた生活を築くことができます。
お互いの価値観を尊重し、柔軟に対応しながら前進することで、キャリアと家庭の両方で満足のいく人生を送ることが可能です。
参照:
夫婦関係に関するアンケート調査参照:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」