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職場の悪口・陰口問題への対応法:パワハラの判断基準と対処

職場の悪口・陰口問題への対応法:パワハラの判断基準と対処

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村井 真子

職場の人間関係がストレスの大きな課題になる中で、職場での悪口や陰口に巻き込まれてしまいストレスを感じる人は少なくありません。パワハラにもつながるこの問題について、厚生労働省の定義や裁判例をもとに、個人としてどう向き合い、対応していけばよいかを解説します。

職場の悪口・陰口はパワハラになる?

職場での悪口や陰口がパワー・ハラスメント(以下、パワハラ)に該当するかどうかは、状況や行為の内容に大きく依存します。パワハラは、職場内での地位や人間関係の優位性を背景に、業務上必要な範囲を超えて他者に精神的、身体的苦痛を与える行為を指します。このため、悪口や陰口がパワハラになる場合は、特定の条件がそろう必要があります。

例えば、一度の軽い冗談や意見表明がただちにパワハラに該当するわけではありません。しかし、悪口が執拗に繰り返されたり、職場全体で特定の個人を孤立させるような陰口が組織的に広がった場合、被害者に精神的な負担や仕事の支障を与える結果となり、パワハラと認定される可能性が高まります。特に、対象者が上司や同僚に相談できない状況が長期化する場合には、深刻な問題となるでしょう。

日本の法律やガイドラインにおいても、パワハラの一環として「精神的な攻撃」が明記されており、悪口や陰口がこれに該当することがあります。ただし、裁判所や労働基準監督署が事例ごとに判断するため、すべての悪口がパワハラとして認められるわけではありません。行為の程度や頻度、文脈を考慮し、慎重に判断されるのが一般的です。

結論として、職場での悪口や陰口がパワハラになることはありますが、すべてが該当するわけではなく、その判断には状況を精査する必要があります。

パワハラの定義と類型

職場のパワー・ハラスメント(パワハラ)とは、職場において行われるもののうち、下記①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

パワハラの三要素

 ①優越的な関係を背景とした言動

 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

 ③労働者の就業環境が害されるもの

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

パワハラの六類型

厚生労働省はパワハラを6つの類型に分類しています。この類型ですべてのパワハラを網羅しているわけではありませんが、こうした行為が上記の3つの要素を満たした場合、パワハラと判断される可能性が高いと言えます。

身体的な攻撃暴力・傷害など。殴る、蹴るといった直接的なものだけでなく、机を叩く、物を投げるなどの行為も該当する。
精神的な攻撃暴言や侮辱などの心理的な苦痛を与える行為。必要以上に長時間にわたる叱責、衆人環視の前での叱責などが該当する。
人間関係からの切り離し特定の労働者が孤立するようにする行為。仕事や情報共有先からの除外、別室への隔離や無視・仲間外しなどの行為が該当する。
過小な要求業務の合理性がなく、経験や能力に見合わないレベルの仕事しか与えない行為。
過大な要求業務上明らかに不要なこと、経験・能力から客観的に遂行不可能な仕事の強制、適切な業務指導なく責任を求めるなどの行為。
個の侵害本人の期待しない形でプライバシーを侵害するような行為。機微な個人情報の漏洩、SNS等での個人の行動の監視行為も含む。

職場の悪口・陰口がパワハラとして認められる基準

職場での悪口や陰口が該当すると考えられるのは、「精神的な攻撃型」と「人間関係からの切り離し型」の2つです。

まず、「精神的な攻撃型」は、悪口や陰口が執拗に繰り返される場合や、侮辱的な内容で自尊心を傷つけるような言葉を含む場合に当てはまります。これにより、被害者は強いストレスを感じたり、仕事に集中できなくなったりすることがあります。

また、「人間関係からの切り離し型」は、悪口や陰口が原因で孤立を招く場合に該当します。たとえば、職場の人間関係であなたが孤立させられ、話し合いや業務上のやり取りから意図的に除外される場合です。

これらの行為は、場合によってはパワハラとして認定される可能性がありますが、認定に際しては下記の要件を勘案して判断されることになります。

  • 当事者の関係性が、一方の要求を抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われていたものであること
  • 社会通念上、明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものであること
  • それらの行為・言動によって、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

これらの基準の判断に当たっては、実際には「誰が/どの程度の頻度で/どのような悪口・陰口を言っていたか」といったものや、それがどのような環境で行われていたか、その悪口・陰口の内容が業務と関連していたか否かといったような内容を総合的に勘案して行われます。

また就労環境への影響に関する判断では「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当だとされています。平均的、すなわち、同じような状況において同じ立場の労働者がどう感じるか、ということが考慮されます。例えばその場にいる労働者の10割が「もうここで働くことは難しい」と感じるようであれば、パワハラに該当する可能性が高いでしょう。

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【事例】同僚による悪質な職場いじめにより精神疾患を発症

悪口を含む職場いじめによる精神疾患が労災であると認められた事例を紹介します(京都下労基署長精神障害事件 大阪地裁 – 平成20年(行ウ)第144号)。

被害者であるAさんは、平成9年4月以降、営業部・業務支援グループに配属されましたが、それまでの業務であるパソコン操作の講習、書類の取りまとめ、データ入力、支社独自のホームページ作成といった仕事も引き続き行っていました。

平成10年5月頃から、Aさんに対し、職場いじめが始まりました。おもないじめの内容は下記のとおりですが、Aさんは上司からセクハラも受けており、精神疾患を発症しました。

●同僚Dからメールマガジン配信業務を引き継いだ際、顧客情報が何カ所も入れ替えられている。
●Aさんが昇進した後も従前の職務を引き続き行っていたことに対し、営業の仕事をしていないのに高給をもらっていると妬まれ、非難される。
●「私たちと同じコピーの仕事で高い給料をもらっている」などと言われる。
●営業部の勉強会で同僚Dから「参加する意味があるの?」と言われ、次回の勉強会を欠席すると「いい加減な人」と同僚の前で非難される。
●Dを中心に女性社員たちから聞こえるような形で継続的に悪口を言われる。
●N課長(男性)から飛び蹴りの真似を複数回される。
●会議で受付業務を担当した際、受付を手伝っていた女性社員たちから悪口を言われれる。
●Aさんが同僚Eにパソコン操作を教えた礼としてケーキをもらった際、「ケーキに釣られて仕事をする女」と陰口を言われる。
●Aさんがミスをした直後、女性社員たちから目配せされ冷笑されるなどの行為を受ける。
●Dの席がAさんの近くに移動した際、「これから本格的に苛めてやる」と言われる。
●得意先向けのファミリー会でAさんが受付業務をしていた際、Eが大阪の社員に「幸薄い顔している」と悪口を言われる。

Aさんは上司や社内の同僚にも相談していましたが具体的な介入はなく、休職し精神科医の診察を受けました。その結果「不安障害、うつ状態」という診断結果を受けたことを受け、Aさんはこの疾患の原因は会社でのいじめと、それを受けて会社が適切な対応を取らなかったことが原因として労災の認定を求めたという事案です。最終的にはAさんの主張は認められ、業務上災害として取り扱われることになりました。

職場の悪口・陰口が該当する名誉棄損罪・侮辱罪

職場での悪口や陰口は、その程度や内容によっては刑法に定める名誉棄損罪(第230条)、侮辱罪(第231条)に該当します。

名誉棄損罪とは、大勢の人の前などで「事実」を示して人の社会的評価を低下させた場合に問われる罪です。この「事実」は嘘か本当かは問われませんので、例えば横領しているとか、不倫しているとか、事実無根のことを「大勢に事実として話し、その結果として話題になっている人の社会的評価を下げる」行為があれば名誉棄損罪がになります。名誉棄損罪が認められると、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金が科されます。

侮辱罪とは、公然と人を侮辱した場合に問われる罪です。名誉棄損罪と違い、「バカ」「無能」といったものや容姿・体形について「ブス」「デブ」といった発言も対象になります。名誉棄損罪と同様に、「不特定多数に対して対象となる人について侮辱し、相手の社会的な評価を下げる」行為があれば侮辱罪になります。侮辱罪が認められると、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料が科されます。

名誉棄損罪・侮辱罪は親告罪といい、被害者からの刑事告訴することで検察官が犯人を起訴することが可能な罪になります。また、このような処罰とは別に、被害者の名誉を回復することを目的とした民事上の責任追及も行うことが可能です。

職場の悪口・陰口に悩んだ時に知っておきたい相談先

一日のうち三分の一を占める職場での悪口や陰口は本当に辛いものです。これらは被害者の精神の健康を奪い、最悪の場合は死へも至る可能性があるという点で、絶対に一人で悩みを抱え込むべきものではありません。ここでは、そのような場合に頼れる相談先を紹介します。

名称内容相談料
社内相談窓口組織内なので一番解決が早い・相談しにくい場合もある無料
総合労働相談センター全国に設置されており専門家に相談できる・電話または対面相談になる・日本語以外でも対応してもらえる無料
法テラス電話だけでなくメールでも相談可能・一定の要件に該当すれば専門家に無料で相談を受けてもらえる無料※電話の場合通話料は有料
労働組合企業に対して団体交渉権がある・同じ境遇の労働者と情報交換・共有できる無料または有料
専門家(社労士・弁護士等)その後のアクションまで含めて相談可能・証拠の保全からアフターフォローも得られる無料または有料

社内相談窓口

現在、すべての企業規模で社内にハラスメントや苦情処理のための窓口が設けられています。まずはそこへ相談してみましょう。ただし、相談先がパワハラの当事者であったり、相談しにくいような場合もあるため、そうした場合は後述する相談窓口を利用しましょう。

なお、1tonariではパワハラ実務に詳しい社会保険労務士が在籍しており、社内では相談しにくい内容やまずは相談といったケースでも対応いたします。

総合労働相談コーナー

各都道府県の労働局や労働基準監督署内など全国379か所に設置されている相談窓口です。いじめ・嫌がらせ、パワハラも含むあらゆる分野の労働問題を対象としており、専門の相談員が電話または対面で対応してくれます。また、日本語以外での相談にも対応可能です。

予約も不要のため、外部へ相談したい場合にまず頼りたい窓口です。

全国の総合労働相談コーナー

法テラス

国によって設立された法的トラブル解決のための窓口で、電話やメールなどで「そもそもどこに相談に行けばいいか分からない」といった場合に活用できます。法律事件に該当するかどうかわからなくても相談をすることができ、相談内容に応じて適切な相談先を提案してくれます。また、通常は弁護士等の専門家との面談相談は有料になりますが、一定の収入要件等を満たした場合に無料で専門家との相談ができることも特徴です。

法テラス トップページ

労働組合

労働組合では、個々の労働者に変わって企業に団体交渉を行い、状況の改善に動いてくれることがあります。自分の勤める会社に労働組合がない場合でも、個人での加入を受け入れている労働組合もあります。多くの労働組合では解決事例として過去の労働トラブルの例を掲載していますので、自分と同じような環境の労働者が所属している組合や事例のある組合へ問い合わせしてみるとよいでしょう。

専門家(社労士・弁護士等)

職場で悪口や陰口に悩んでいる場合、社労士や弁護士に相談することは、問題解決への第一歩となります。社労士は労働問題やハラスメント防止に関する専門知識を持ち、会社との橋渡し役として最適なサポートを提供できます。弁護士は訴訟を見据えた対応や本人に代わり企業へ交渉することも可能です。こうした専門家に相談することで、自身のおかれた環境を整理し、証拠の収集方法も的確にアドバイスをもらうことで、その後の状況の改善を有利に運ぶことができます。

また、こうした専門家を自分の味方に置くことで精神的な負担が軽減され、自分の権利を守りながら、職場環境を改善するための具体的な行動を取ることが可能になります。

1tonariの「企業人経営」プログラムでは士業と連携し、職場の悪口やハラスメントが起きない社内風土改善を行っています。ぜひお問い合わせください。

職場の悪口・陰口に悩んだらまずは相談から

政府調査では、働くうえでの「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は全国で年間8万件以上に上ります。職場での悪口や陰口は、被害者にとって大きなストレスであり、最悪の事態も引き起こす可能性のあるものです。 本記事を参考に、自分が守られるべき権利を理解し、状況を改善する一歩を踏み出していきましょう。

中小企業オーナー経営者向け自律型経営コンサルティングサービス「企業人経営」

「企業人経営」とは、経営者と同じように社員が働ける仕組みを整える組織経営コンサルティングサービスです。中小企業に経営者向けに特化したサービスラインで、財務から人材育成まで幅広く事業をサポートします。まだ顕在化していない貴社の課題の抽出から処方箋の提案、実際の解決まで専門家集団が支援します。

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村井 真子

社会保険労務士・キャリアコンサルタント・MBA家業の総合士業事務所にて実務経験を積み、2014年愛知県豊橋市にて開業。LGBTQアライ。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』等。

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