現在、いわゆるファミリービジネス経営者やオーナー企業、地域における名家など「良家」の婚活は苦戦を強いられる傾向がある。家のカラーが強く、子どももその色や嫡子としての責任を感じて相手選びのハードルを高く設定することが多いからだ。しかし、そのような相手との結婚でこそ活躍できる人もいる。そのような結婚の在り方を提案し、「良家のご縁の会」「経営者妻スクール」などを主宰するFORTUNA GROUP 株式会社の村田弘子氏と、1tonariの村井真子が「良家の婚活がビジネス上も重要な理由」をテーマに対談した。
村田弘子/FORTUNA GROUP株式会社代表取締役
創業70年の会計事務所の2代目に嫁ぎ、自身も後継者育成に奔走。婚家の家業に従事するなかで顧客経営者から縁談の相談を受けることが多く、2012年、結婚相談所しあわせ相談倶楽部として事業化。身上書を預かる昔ながらのお見合いスタイルも、親御様から好評を得る事業承継を結婚で解決することを、会計事務所の新しいソリューションとして、安心の婚活プラットフォームづくりを目指している。FORTUNA GROUP株式会社 https://fortuna-group.co.jp
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「良家」との縁組で当事者が感じるプレッシャー
村田弘子(以下、村田):そもそも、私がこうした仕事を始めたのは義父の影響なんです。義父は税理士なんですが、仲人を頼まれてよく引き受け、お世話していました。時代も変わり、夫は税理士としての仕事を一生懸命やっていますから、じゃあ私が義父の仲人の仕事を引き継ごうかなと思ったのです。
村井真子(以下、村井):私の場合は祖父が司法書士で、頼まれて仲人をしていました。本当にお盆とお正月はご縁組みされた仲人子さんたちがにぎやかにご挨拶にきてくださる環境で育って。かつては仲人は仲人親、縁組された当事者のことを仲人子といって、親子のように強い絆をもっていたと聞いています。それだけ、仲人の責任は重かったということなんでしょうね。
村田さんは会計事務所を営んでいるお家に嫁がれ、お義父様の仕事の仲人の部分を継がれたというお話ですが、もともとご自身もそういった士業や家業持ちのご家庭だったんですか?
村田:私自身はサラリーマン家庭で育ったんです。夫とはお見合いで、尊敬できる方だったので抵抗なく結婚までは至りました。これは大変かもしれない、と思ったのは結婚式が終わった後。私だけ義両親に呼ばれて、「弘子さん、子どもは三人以上、そのうち男の子は一人以上。その子を公認会計士か、税理士に育てなさい」っていきなり言われまして。衝撃でした。なんで私だけに言うの? とか。本当に生まれなかったらどうしよう、とか。
村井:結婚当日! それは本当にプレッシャーですね。私自身、家業持ちの相手と結婚しています。義両親は何もそういうことは言わないでくれたのですが、三人目で男の子を出産したときに「よく産んでくれた」と言われて。ああこれは待っていたんだな、と痛感しました。
「良家」が継続する鍵は後継者育成
村田:幸いなことに私自身は一人目の子どもが男の子だったので、本当にほっとしましたね。授かるまで、なんで努力でなんともならないことを求めるんだろうと感じていました。家の中に自分だけ味方がいないような気持になったこともありました。それが一つ終わったので、大げさに言えば肩の荷が下りた部分がありました。今度はその子をうまく育てていかないといけないのですが、それはやりがいにもなりましたから。
村井:子をうまく育てる、ということでいうと、いま子育て当事者である私にはとても難しく感じます。この場合、後継者育成という観点ではどのようなゴールを描けばいいのでしょうか?
村田:家の仕事にきちんと敬意を持ち、それを子どもに伝えていく、と言うことではないでしょうか。
よくトラブルになるのが、父親は家業を継いでほしい、母親は大変だから家を継ぐのはやめなさいというようなケースです。これでは子どもの価値観が定まらず、アイデンティティを形成する過程で迷ってしまいます。良家とご縁を持つ場合、そこをきちんと導いていくことが、お二人だけではなく家そのものにとっていかに有益かをきちんと理解する必要があります。
村井:いわゆる家の価値観というか、家自体が持っている考え方、結婚するご本人の価値観が違うこともありますよね。でも、その違いを受けいれている、というか、いったんそれはそれとして飲み込んでいる、という後継者さんは多い。いい悪いは別として、判断せずに保留するという態度があるように思います。
村田:思った通りのことを言ってはいけないんですよ。「えっ、なんで?」と思うようなことがあっても、絶対に受け入れられないということでないのであれば、いったんそういうものなのだと思って受け入れる。皆がみんな、自分の思った通りのことを言ったら家の規律が崩壊してしまいますから。長く続くお家はこの教育がとてもお上手なんです。後継者教育もですが、お嫁さん・お婿さんの教育がうまい。その結果、後継者が価値観形成の時期に迷わないようになるから、きちんと家のために、家族のために働く意識を持てるようになる。
村井:家には家の規律がある。良家はそれを意識していて、維持しているわけですね。そういう観点では、家として大事にしなければならないこと、譲歩・妥協できるところをはっきりさせていく必要があると思います。これだけ個の尊重ということを私たちは言われて育っているのに、結婚はそれぞれの個の価値観を一つの家庭の価値観にしていかなければならないわけです。そのとき、自分の「個」のすべてを尊重できるということはあり得ない。自分を尊重してほしいと願うのは当然ですが、同時に、お相手のことも尊重する、という姿勢も当然必要なものではないかと考えます。
村田:家として譲れない部分は譲ってはならないけれども、緩められるところ、歩み寄れるところは受け入れていくということですよね。
「良家」との結婚で期待される役割
村田:うまくいっている家、繁栄しているお家というのは、本当に一族の結束が強い。結婚は本人対本人のものではありますが、良家の場合は本人とだけ、つまり結婚相手とだけうまくやれればいいというものではありません。ステークホルダーと言いますか、義理の両親や兄弟姉妹だけではなく、家業で働いている社員、顧客、地域の方々、ご縁のある周囲の人々ともうまく調和していかなければならない。
村井:そう考えると、ヨメ・ムコというのは一種の仕事、機能的なもので、当事者個人個人の人格や価値観とは別物なんですよね。職能として振舞わなければならないところが多い。だからこそ、ヨメやムコとしてその家で自分が何を求められるのかを事前に知っておく、ご縁づく家の価値観に照らしてどういう振る舞いをする必要になるのかをイメージしておくことは、実際に結婚される場合の精神衛生にとても有効なのではないかと感じています。
村田:自分の振る舞いひとつでその家の評価が変わってくる。あのお嫁さん、なんだか愛想がないな、と思われるか、ニコニコしていつもいい感じだな、と思われるかどうかで、家の評価自体が違ってきます。そういう点も含めて、良家にご縁づくって本当に限りないやりがいもある仕事なんです。覚悟は必要だけれども、飛び込んでみれば学びの多い、本当に人間的に成長させてくれる環境にあると思います。
村井:結婚は家庭という事業を回していくうえでのビジネスパートナーを選ぶということでもありますよね。家業のある方、良家の方たちはそのうえでまた別のレイヤーの事業や地域の立場などを加味して動いていくわけで、そういう役割の担い方を学んで実践する場がすぐある、自分が能動的に働きかけてドラスティックに関係性を変革したり作ることができる。そういう面白さもありそうです。
「良家」へ縁づいて輝く人の条件
村井:ところで、そうした役割の担い方を家族のなかで間近で見てきた人もいれば、そうではない人もいますよね。村田さんご自身はサラリーマン家庭から家業のある方とご結婚なさっていますが、実際のところ「良家」にご縁づく方はご自身もそのような環境にある方が多いのでしょうか?
村田:これについては2パターンあると思います。
前者は同じような環境下にあって、親御様を大変尊敬している、というパターンです。特に多いのはお嬢様がお母様を尊敬しているケース。お母様がお父様をサポートし、経営者の妻として支えてきた、というお姿を見てきて、それがいい、それをやりたい、と思うビジョンを持っている方ですね。こういう方は事業をされている方を望まれますし、事業をされている方からも望まれてご縁づかれます。
後者はそういった環境下で生まれたわけではないんだけれども、お相手への尊敬があり、かつご家族への忠誠心と言うか、家族への貢献の気持ちが大きい場合です。
村井:良家と呼ばれる家の方がご自身のご家族について語られるときに、「仕える」という言葉をよく使っておられますね。「妻は僕の親によく仕えてくれたから」ですとか、「僕自身も親に仕えてきたから」といった語りが代表的なものですが、それは何も上下関係があるということではなく、敬意をもって礼を尽くしている、ということなのではないかと今お話を伺って気づきました。
村田:「仕える」って日常ではほとんど使わなくなってきた言葉ですが、一方で経済界ではスチュワードシップのような、受託者責任という概念も出てきている。跡取りとして生まれてきて、その方はその時点である種の「家」を背負って生きていて、その家には従業員がいて、その家族がいて、取引先がいて……という関係がある。そのような特殊な状況にあるということの責任を多くの後継者は自覚しています。日本が老舗大国なのは、いい悪いの問題ではなく、こうした責任を跡取りの方、良家の方が自覚して、受け継いできたからだと思うのです。
村井:事業承継の観点でも、いまの村田さんのご指摘はとても重要なものです。親の仕事に対する子の敬意がなければ、その仕事を継ぐには至らない。親自身が自分の仕事、役割を全うしていく姿勢を子どもに見せていかねばならないということですね。子ども自身が、継承しよう、自分がそれを受け継ぐんだ、と親の姿勢を見て学んでいく。
村田:うまく承継されている家は、お孫さんに対しておじい様、おばあ様がうまく関わっていらっしゃる。村井さんもおじい様のお話をなさっておられましたが、親とは違う、無償の愛であって、かつご自身もその事業、家の価値観を担ってこられた方々だからこそ、孫とも精神的に深い部分で関わる余裕ができるし、ご自分の体験や言葉を伝えられる。お家を継ぐことに反発されていた方でも、最終的に承継を決めた理由を伺うとおばあ様からの影響を挙げられる方は多いですよ。
村井:両親だけに教育の責任を負わせない、ということもあるのかもしれませんね。実際に数々のご縁組みをサポートされてきた村田さんから見て、うまくいくカップルにはなにか特徴があるものでしょうか?
村田:お互いに対して、意欲をもって出会っている、ということですね。また、相手の仕事、相手の家業に対しても敬意を持っていること。出会って二回目、三回目のフェーズで未来の話を具体的に出来るカップルは、皆さんうまくいっていらっしゃるようです。この、相手だけではなくて、その背景にも敬意を持てる人は良家にご縁づいてもうまくいきますね。
「良家」にお相手を迎えるときの注意点
村井:今は少子の時代ですから、お互いひとりっ子だったりすることもありますよね。跡取りさんの結婚と言うとどうしても男性のところへ女性がご縁づく、というパターンをイメージされることが多いように思いますが、実際にはその逆も多いです。お婿さんが家業を継がれて発展させていく例も多いですよね。
村田:その通りです。とはいえ、まだまだ男の子が家を継ぐ、という考え方がある状況ですから、最初から入り婿志望の男性はほとんどおられない。だから、お婿さんを迎えてみんなが幸せになるためには、そのお婿さんのご両親も納得される必要があります。
村井:お婿さんを迎えるときの注意点があれば教えていただけますか?
村田:お迎えになるお嬢さんが、ちゃんとお婿さんを守る、ということですね。例えば女系のお家で、代々お婿さんをお迎えになっている良家があります。こういうお家のお母様、お嬢様にとって、お父様は最初からお婿さんでうちにいるわけで、婿ではない男性を家庭内で見たことがない。
村井:確かに! ご本人たちにとっては、それが当たり前の結婚の形なんですね。
村田:でも、お婿さん本人にはそうではない。自分がお婿に行く、というのはイレギュラーなんです。だから、「この人は素晴らしい」「この人のお家も素晴らしい」と思ってお婿にいらっしゃるんです。だからこそ、お迎えになる家のお母様、お嬢様には、「あなたがお婿さんを守るんですよ」と強くお伝えしています。そうではないとなかなか家の中に入れないし、期待された役割を担えなかったり、男性側のご両親も不安に思われるというところがあります。
村井:もちろんお嫁入りの際もそうなのでしょうが、迎える側が迎える相手を大切にする。その決意をきちんと言葉にして伝える、ということが重要なんですね。
「良家」との結婚は無限のやりがいに溢れている
村井:私の祖父はよく、「お神輿は四人で担ぐ」と言っていました。お神輿は家業のこと、四人とは自分と自分の配偶者、そして子と子の配偶者という意味です。この配偶者は必ずしも事業を一緒にプレイヤーとして回すということではなくて、村田さんのおっしゃる後継者育成や、経営者の精神的なバックアップを行うことを意味していたのだと思います。このポジションを企業で担おうと思うと難しいですが、結婚によって一足飛びに関われる、というのは本当に面白いしやりがいがありますよね。
村田:家業、ファミリービジネスにとってパートナーの力は本当に大きいものです。自分がどれだけよい影響力を行使できるかで、跡取りの意欲、モチベーションが変わり、家業の利益も変わり、家族の将来も変わってきます。良家の方の婚活は難しい面ばかり言われることが多いのですが、実際にはその難しさこそが面白さ、やりがいにつながる。後継者を産む、育てる、なんてまさにそういうものですね。ここに限りないやりがいがあって、大変さはあるのだけれども、それだからこその魅力のある仕事なのだと知っていただければと思います。
(2024.12.17 オンラインにて対談)