「やる気のない社員」はチームの士気を下げるため、迅速な対策が求められます。本記事では事例をもとに周囲のモチベーションを下げる社員の特徴と、業務指導に対しパワハラを訴えてきた際の対応例、さらにそうした社員からやる気のある社員を守るための7つの方法を社労士が解説します。
不満だらけの社員がチームの士気を下げた事例
アサノさん(40代・男性)のチームは、社内の基盤情報システムを変更するプロジェクトチームのリーダーをしています。社内的には非常に重要なプロジェクトですが、関係者が多く、各部署の作業量も多いために不満も持たれやすい仕事です。しかし、アサノさんは新しいシステムの仕組みも熱心に学んでいてチームの空気は良好でした。
問題が生じたのは実装の段階、様々な部署からメンバーがアサインされたフェーズでのことです。各部署でのシステム実装のため、部署から各1名が選抜されて参加することになりましたが、その中の一人・サキタさん(30代・女性)にはチームの士気を下げるような言動を繰り返す癖がありました。
具体的には数値目標の軽視、作業レベルで手を動かすことを厭う態度などが見られ、システムを学習するための勉強会にも欠席するなど非協力的な姿勢が目立ちました。また、実際にも「システムだけ変えても会社がよくなるわけじゃない」「会社は現場のことを何もわかっていない」などの言動を繰り返し、システム実装に向けてとりくんできたメンバーへ社内から不満があるようなことを繰り返し話してきました。社内でも慎重に協議を重ね、合意を得て行っているプロジェクトですが、その調整役も担ってきたアサノさんには、こうしたサキタさんの態度は本当に腹に据えかねるものでした。アサノさんはリーダーとしてサキタさんに注意しつつ、出向元の部署へも苦情を伝えましたが、改善される見込みはありませんでした。
それでも慎重な姿勢をとり、プロジェクトメンバーがサキタさんに対する不満を漏らしてもなんとか抑えていたアサノさんですが、ついにサキタさんを中心的な仕事から外すことにしました。サキタさんに頼んでいた社内プレゼンの重要な会議の場所のセッティングができておらず、役員からメンバーとともに叱責を受けた後で、「会議はパフォーマンスに過ぎない。こんなことに時間を使うくらいならクリエイティブな仕事がしたい」と漏らしていたからです。悪びれない態度にメンバーの不満も膨らんだため、アサノさんはその日以後、サキタさんをすべての会議メンバーから外しました。業務は再び円滑に回るようになりましたが、そうしたアサノさんをはじめとするプロジェクトメンバーからパワハラを受けているとサキタさんが会社の相談窓口に申告したのです。
サキタさんの主張は、「自分は会社のためを思って色々と発言してきたのに、アサノさんをはじめとするメンバーはそれを聞きいれず、重要な仕事を取り上げている」というものでした。アサノさんは会社のパワハラ相談窓口より意見聴取の場を設けられ、自分がパワハラをしていると会社が判断するのであれば異動させてほしい、チームのメンバーには申し分けないと思うが、自分としてはサキタさんに再三注意もしてきたことであり、自分には対応できないと伝えてきました。
このケースは、やる気のない社員がやる気のある社員のモチベーションを悪化させ、チームの士気を悪化させた典型的な例です。
目次
周囲のモチベーションを下げる社員の特徴
このように周囲にマイナスの影響を引き起こす社員には、いくつかの共通する特徴があります。ここではその代表的なものを紹介します。
-
責任回避の態度
・自分にとって難易度が高い業務やしなければならない業務を避けようとし、「それは自分の仕事ではない」といった発言をする。
・他責的な思考をする癖があり、問題が生じた際に他人のせいにする。
・内省する態度に欠け、自分の過ちを認めようとしない。 -
被害者意識が強い
・自分が常に被害者であるという態度を崩せない。
・内容について指導や助言、改善点を話していても、人格否定する発言だと受け取る。自分の仕事や能力を否定されていると感じ、防衛的な対応を取る。
・職場での不満やストレスを外部に訴え、チームの信頼を損なう行動を取る。
・成果が出ない原因は自分ではなく周囲にあると考える。 -
自己評価と現実の乖離
・実際のパフォーマンスに比べて、自分を高く評価しがちで、周囲からの正当な評価を受け入れない。
・自分の努力が認められないことに対して強い不満がある。自分だけが不公平に扱われていると感じがちである。
・客観性に乏しい。
・定量的な評価を受けたがらない。 -
ネガティブなコミュニケーション
・「どうせ無理」「やっても意味がない」といった発言をする。
・チーム内で不満を煽る行動を取る。
・チームの生産性を上げるための努力を軽視する。
「やる気のない社員」がパワハラを訴えてきたときの対応
事例のようにやる気のない社員が告発者となってパワハラを訴えてきた場合でも、通常のハラスメント相談と同様にまずは相談の聞き取りをします。そこでパワハラ被害の内容について、「どんな状況で、だれが、どのように、どんな言動をしたか」「それはどのような頻度で行われたか」といった内容を確認します。ここでは内容自体の是非を確認するのではなく、行為の事実確認を行うという姿勢が重要です。
ついで、相手方になる行為者にもヒアリングを行います。そのような事実があったかどうか、告発者と同様の内容で聞き取りして確認します。ここでも行為者が加害者であるという認定をするのではなく、あくまでも事実確認に努めて下さい。
内容に齟齬があれば、関係者や目撃者などから情報を収集します。事例のような場合では、告発者であるサキタさんにも一定の過失は認められると考えられます。ただし、だからと言ってただちに仕事を外してもよいわけではなく、アサノさんが行った行動はパワハラの6類型のうち「過小な要求」型、「人間関係からの切り離し」型に該当する可能性が高いでしょう。
この事例では、サキタさんとアサノさんの双方に処分を科しました。具体的には口頭注意ではなく、今後士気を下げるような発言を厳に慎むことを戒告処分として与えるとともに、チームメンバーへ文書で謝罪をすることを求め、プロジェクトチームからは正式に除籍することになりました。また、アサノさんにも戒告処分を与え、感情的にならずにコミュニケーションを取れるよう研修を受講することを求めました。
さらに、組織としては正当な業務指導を行っても改善されない場合は人事部を経由して部門長に通知するフローを敷き、再発防止に努めることになりました。
「やる気のある社員を守る」職場構築のための7つのステップ
このようなやる気のない社員からやる気のある社員を守るためには、適切な措置を講じて職場環境を改善する必要があります。下記に具体的なステップを示します。
これらの対策を実施することで、やる気のある社員が働きやすい環境を整え、職場全体の士気を向上させることが可能です。また、モチベーションの低い社員へのアプローチを通じて、潜在的な能力を引き出す可能性も生まれます。
1 公平で透明な評価制度の導入
-
やる気のある社員の努力を見える化する
頑張る社員が正当に評価される仕組みを導入します。たとえば、人事評価制度の基準を公開したり、自分の目標を自身で設定できるような仕組みを作ることで社員のモチベーションを維持します。このように具体的に評価される基準を明確化し、評価結果をフィードバックすることで、社員の努力が正当に評価される素地を作ります。
-
不公平感をなくす
上司の恣意的な判断を防ぐため、評価者研修を実施したり、複数人での評価を行う、360度評価を導入するなど多角的な評価方法を活用することも効果的です。時間あたりでの生産性を評価するなど、評価指標を変えることも有効です。
2 明確な行動基準とルールの設定
-
役割と責任を明確化する
全社員に対して、それぞれの役割と責任範囲を明確にし、あいまいさを排除します。責任の所在が明らかになれば、やる気のない社員が他者に負担を押し付ける行動を抑制できます。
-
問題行動を定義し、服務規律に盛り込む
やる気のない社員による職場への悪影響を最小限に抑えるために、就業規則を見直し問題行動を禁じる規定を置きます。その際、「〇〇しないこと」という規定ではなく、「〇〇すること」という肯定文で記載を置くことで、より問題行動をわかりやすく規定することができます。
3 モチベーションの低い社員への改善支援
-
個別指導とコーチング
モチベーションが低い理由を掘り下げ、改善の余地がある場合には、具体的なサポートを提供します。キャリア相談やスキルアップのための研修などを実施することで、再びやる気を持つきっかけを与えられる可能性があります。
-
改善計画の策定
明確な目標と期限を設定し、定期的に進捗を確認します。改善が見られない場合は、段階的に厳格な対応を取ります。
4 やる気のある社員の負担軽減
-
仕事の分担を最適化する
やる気のある社員に業務が偏りすぎないよう、タスクの割り振りを公平に行います。特定の社員に過剰な期待をかけすぎると、モチベーションの低下や離職につながる可能性があるため、適切な労働配分を維持します。
-
心理的安全性を確保する
職場の中で「ミスや指摘を許容する文化」を醸成し、頑張る社員が過度にプレッシャーを感じないようにします。オープンなコミュニケーションの場を設け、社員が意見を安心して言える環境を整備しましょう。
-
感謝と認識を明確に伝える
やる気のある社員の貢献に対して、直接感謝を伝えたり、社内で称賛する仕組みを導入します。「努力が認められている」と感じることで、さらにモチベーションを高めることができます。
5 ハラスメント問題への毅然とした対応
-
問題行動を見過ごさない
モチベーションの低い社員が「パワハラだ」と不当な主張をする場合、感情論に流されず、事実に基づいて冷静に判断します。適切な調査プロセスを踏むことで、やる気のある社員を守り、職場の秩序を保ちます。
-
全社員への教育を実施
パワハラの定義や防止策について全社員で理解を深める研修を実施します。「厳しい指導」と「ハラスメント」の線引きを全員が共有することで、モチベーションの高い社員が不当なクレームの対象となるのを防ぎます。
6 管理職のスキル向上
-
コンフリクトマネジメント
社員間の軋轢を適切に調整するため、管理職に対してコンフリクトマネジメントのトレーニングを実施します。特に、チームビルディング、コーチング、メンタリングなどの学びを通じてやる気のある社員とモチベーションの低い社員の間で発生する緊張を緩和する方法を学ぶことが重要です。
-
公平な評価を行うスキル
部下を公平に評価し、それを適切にフィードバックする能力を磨きます。これにより、モチベーションの高い社員が不当に感じることなく、自信を持って仕事に取り組める環境が作れます。
-
部下のモチベーションを引き出す技術
モチベーションの低い社員に対しても、適切なアプローチでやる気を引き出すスキルを提供します。コミュニケーション技術を高めることで、全体的な職場の士気を向上させることが可能です。
7 職場文化の改善
-
明確な目標を共有する
職場全体で達成すべき目標やビジョンを明確にし、全社員がその意義を共有できるようにします。「やる気のある社員」が孤立しないよう、チーム全体での一体感を醸成します。
-
やる気を奨励する文化の醸成
「頑張る社員が報われる」という文化を作り、積極的に行動する社員が他の社員に良い影響を与える仕組みを整備します。例えば、社内表彰制度や成果発表会を取り入れることが効果的です。
「やる気のない社員」から「やる気のある社員」を守る企業人経営
企業人経営は企業人経営とは、経営者と同じように社員が働ける仕組みを整える組織経営コンサルティングサービスです。企業人経営では社員ひとりひとりが経営者のビジョンを共有し、自律的にその実現のために機能できるよう、財務・DX・労務・人材育成の観点から貴社の組織の課題を抽出。組織が健康に成長するよう整えていくことで、貴社の発展に貢献します。
やる気のない社員の態度を改善し、やる気のある社員が経営者のようにその能力を発揮できる環境を整えることは成長する組織にとって大きなメリットがあります。そのためにも、組織のひととなりを知り、社員の問題行動を分析することは重要です。組織の価値観と社員の価値観が齟齬なく共存できる組織を目指し、組織の健全化を図りましょう。